アラサーぼっちと保護犬ロン

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「……なるほどね。二人の気持ちは分かった。じゃあ、次は私の率直な気持ちを言っていい?」  俺だって愚鈍な人間ではないから、母さんの次の言葉が高い精度で想像できてしまう。きっとあまり聞きたくない類のものだ。  だけれど、俺は首を小さく縦に振っていた。母さんの言葉を遮るだけの権限は、俺にはなかった。 「私はこのままロンを家に迎え入れるのは、難しいと思ってる。正直、ロンの世話は想像以上にやることが多かった。今はいいけど、これから先何年もロンの世話を続けていけるかどうかは、私には本当に申し訳ないけど、自信がないの」 「……それってロンを保護団体のもとに返すってこと?」  思わず訊いてしまった俺に、母さんは首を縦に振ることはなかった。だけれど、かすかに伏せられた目が「そうだ」と語っている。  もちろん母さんたちにも事情はあるのだろう。  だけれど、それが分かっていてもなお俺は、二人の態度に反感を抱いてしまう。簡単にそんな選択をしてほしくないと、感じてしまう。 「何それ。犬飼いたいって言い始めたのは、そっちの方じゃん。それが何? 思ってたよりも世話が大変だからって、投げ出すの? そんなの、犬を捨てるような飼い主と何も変わらないよ」 「知佐、そうじゃないの。保護団体さんにお返しするのも、立派な選択の一つなの。私たちよりももっとペットを飼った経験があって、ロンを幸せにできる里親さんがいるかもしれないでしょ」 「もし、それが見つからなかったら? ロンが愛護センターで一生を終えることになったら? 母さんたちは本当にそれでいいの? 商品感覚で、命を軽く見すぎてんじゃないの?」 「そんなことないよ。トライアル期間が終わったら、必ず本譲渡に移らなきゃいけないなんて決まりは、どこにもないから。これは私たちとロンのどちらにとっても、前向きな決断なの」
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