アラサーぼっちと保護犬ロン

36/43
前へ
/43ページ
次へ
「そんな言葉でごまかさないでよ。大体ロンが家にいたら幸せになれないって、なんで言い切れるの? そりゃ俺たちは里親や飼い主としては初心者だけど、それはこれから勉強していけばいいだけの話じゃん。それにこんな話するのもどうかと思うけど、ウチだってお金ないわけじゃないんだしさ。これからも変わることなく接し続けていけば、いずれはロンも今よりも心を開いてくれるって、それこそ前向きに考えられない?」 「知佐、お前の言いたいことは分かる。でも、俺たちは正直、そこまで明るい見通しは描けないんだ。ロンにとってこの家が最良なのかどうか、どうしても言い切れないんだ」 「ねぇ、父さんも母さんもどうしてそんなに渋るの? 丁寧に接しても、ロンはあまり応えてくれないから、もう一緒にいるのが嫌になっちゃった?」 「そんな、嫌になんてなってないよ。でも、知佐はどうしてそこまでロンにこだわるの? 最初の頃は迎え入れることに、ちょっと面倒くさがってたじゃない」  マジか。俺はそう声に出しそうになってしまう。そんなことを訊ける母さんの神経が分からなかった。話が通じないことに、少しずつ苛立ちも生まれてくる。  でも、ここで怒りをあらわにしても何もいいことはないので、俺は落ち着くように自分に言い聞かせた。 「そんなのさっきも言ったけど、一緒にいて愛着が湧いてきたからに決まってんじゃんか。そりゃあまり反応を示してくれない時もあるけど、それでも俺はロンのこと好きだよ。大切に思ってるよ。母さんたちは違うの?」  母さんたちは、明快な反応を返さなかった。曖昧な表情から、まだ迷っていることが透けて見える。だから、俺は二人の考えを望ましい方向に傾けるために、言葉を続けた。 「世話が不安だったり億劫だっていうんなら、俺が全部ロンの世話をしてもいいよ。散歩だけじゃなく、食事もシャワーも排泄物の処理も全部俺がやる。だからさ、お願い。明日からもロンをこの家にいさせてよ。俺もロンを幸せにできるよう、精いっぱいの努力はするからさ」
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加