アラサーぼっちと保護犬ロン

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 開場時間ちょうどに入場は開始される。だけれども、俺たちはすぐには譲渡会場に入ることはできなかった。  やはり会場のキャパシティには限りがあるようで、俺たちは受付で整理券を渡される。整理券には一一時から入場が可能と記されていて、俺たちは少し時間を潰す必要があった。  とはいえ、今回の譲渡会はただ単に保護犬や保護猫の里親を見つけるためだけのものではない。大手家電企業が主催しているとあってペット用の家電の展示ブースや、また今は里親のもとで暮らしている元保護犬・保護猫の写真展も共催されていた。  俺たちは譲渡会場に入る前に、まずはそれらのブースを見て回る。この家電はペットを飼ったときに便利そうだと感じ、元保護犬・保護猫の元気そうで幸せそうな写真を見て、実際に飼っているイメージを膨らませる。  もちろん俺はまだ保護犬・保護猫を迎えることに完全には賛同していない。それでも、そんな想像ができるくらいには、俺の中では飼うことに前向きな気持ちが生まれつつあった。  一一時になると整理券を確認してもらって、俺たちはようやく譲渡会場に入ることができる。俺たちはまず、保護犬のコーナーから周ることにした。  仕切りで仕切られた空間には、芝生を模した黄緑色の床材が敷かれ、そこには十数匹の犬がいくつかのケージに分けて入れられていた。チワワにポメラニアン、ブルドッグに柴犬など犬種も身体の大きさも様々な犬たちが、ゆっくりと佇んでいたり、忙しなく動き回ったりしている。  犬の側にいるスタッフと参加者が話していたり、気になる犬を触ってみたりしている人もいる。人の話し声と犬の鳴き声が合わさって、活気のある空間だ。  もっと犬特有の鼻につくような臭いがすると思っていた俺は、臭いがほとんど感じられないことを少し意外に思う。それは今日の譲渡会に向けて、保護犬たちがシャワーを浴びたりして身なりを整えていることのほかに、この会場で脱臭機が稼働していることも大きいのだろう。賑わいを見せる空間は、保護犬を家族に迎え入れたいというポジティブな想いに満ちていた。
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