アラサーぼっちと保護犬ロン

9/43
前へ
/43ページ
次へ
 俺はなんとなく、保護犬を見て回る両親についていく。壁やパネルにそれぞれの犬の名前や犬種、性別や年齢といった基本情報は掲載されていて、俺たちはそれを参考にしながら迎え入れる候補の犬を決めていく。保護団体のスタッフとも話しながら、時にはケージ越しに犬に触れたりしながら、時間の許す限り多くの犬を見て回った。  二人は事前に飼う犬種をあまり想定していなかったようで、今会場にいるほとんど全ての犬について、スタッフの話を聞いていた。俺も適当に聞き流す。  主に世話をするのは、俺ではなく母さんたちなのだ。一つ屋根の下に一緒に住むことになるとはいえ、どの犬がいいかのこだわりはあまりなかった。  この後に見て回る保護猫も含め、なるようになる。それくらいにしか俺は考えていなかった。  だけれど、漫然と見て回っているうちに、俺はある一匹の犬の視線を感じてしまう。  目を向けると、そこには白と黒の体毛を持ったコーギーがいた。まんまるとした双眸がじっと俺を見てきていて、そばだった耳が特徴的だ。  俺は無視するわけにはいかず、両親と一緒にそのコーギーがいるケージの前に向かう。  スタッフの説明によると、このコーギーは名前をロンといい、四歳のオスらしい。成犬で性格も安定しているから飼いやすいというスタッフの言葉に、俺たちは耳に傾ける。  触ることってできますか? と母さんが言い、スタッフの承認を得て、俺たちは順番にそのロンに触れた。ロンの体毛はなめらかで、頭を撫でると人に慣れているのか目を細めていた。特に俺が触った場合は顕著で、初対面とは思えないほどリラックスしていた。気を許しているかのような態度に俺としても悪い気はしない。  でも、体温とともに感じる生き物を触っているという感触に、俺はすぐに飼いたいという気持ちにはなれない。命を預かるという事実は、簡単には俺に首を縦に振らせなかった。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加