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 パトカーのサイレンが近くで止まり、何人もの人が階段を上る足音が聞こえてくる。それでも本郷は踊り続けた。  ぼくの前からも、後ろからも警察が近づいてくる。ぼくは本郷に手を伸ばした。本郷もぼくに向かってすらりと手を伸ばす。 「本郷、綺麗だよ」  ぼくがそう言うと、本郷は泣きそうな顔で笑った。 「ばか」  そう言う本郷が、後ろから警察に肩を掴まれる。同時にぼくも警察に両腕を掴まれた。ごめん、と本郷の口が動く。ぼくは首を横に振った。  警察が何かを言っているけれど、よく聞き取れない。泥水のような空に目を凝らすと、煙のような頼りない雲の向こうに、引っ掻き傷のような月が浮かんでいた。 「……本郷」  警察に連れて行かれる本郷の背中に向かって呟く。瞼の裏側に本郷の舞う姿が焼き付いて、目を瞑った暗闇の中でも鮮やかに、彼女は踊り続けていた。    そしてその時、ばかみたいに今更、ぼくは本郷が好きなのだと気づいた。本当にばかだったのはぼくの方だった。
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