姉と薔薇の日々

2/74
前へ
/74ページ
次へ
 あんなに伸びていた爪を、彼女が切った。  あたしはそれが何かの悪い前兆のようにしか思えなかった。  彼女が深爪した。  凶器のように鋭かったかつて皮膚を形成していたその骸は、百円均一で売っていたツメキリの手によって、平べったくなってしまった。 「なに人の爪ジロジロ見てるのよ」 「なんで切ってるの?」  綺麗なのに。  いつも様々な色のマニュキアつけてお洒落していた彼女なのに。 「もう、必要ないから」  彼女はアッサリ言う。 「……そっか」  パチン、パチン。  ツメキリの音が部屋中に響きわたる。  制服姿のあたしは鞄を持って立ち上がる。 「そだ、芹夏(せりか)」 「何?」  彼女はあたしの名前を呼んで意地悪そうに微笑む。 「アタシ、あんたのこと、大嫌いだよ」  嬉しそうに、ダイキライと言う。 「それは好都合。あたしもあんたのこと、大嫌いだから」  笑顔を返して、あたしは自室へ戻る。  それが、あたしと彼女の、最期の会話。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加