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あんなに伸びていた爪を、彼女が切った。
あたしはそれが何かの悪い前兆のようにしか思えなかった。
彼女が深爪した。
凶器のように鋭かったかつて皮膚を形成していたその骸は、百円均一で売っていたツメキリの手によって、平べったくなってしまった。
「なに人の爪ジロジロ見てるのよ」
「なんで切ってるの?」
綺麗なのに。
いつも様々な色のマニュキアつけてお洒落していた彼女なのに。
「もう、必要ないから」
彼女はアッサリ言う。
「……そっか」
パチン、パチン。
ツメキリの音が部屋中に響きわたる。
制服姿のあたしは鞄を持って立ち上がる。
「そだ、芹夏」
「何?」
彼女はあたしの名前を呼んで意地悪そうに微笑む。
「アタシ、あんたのこと、大嫌いだよ」
嬉しそうに、ダイキライと言う。
「それは好都合。あたしもあんたのこと、大嫌いだから」
笑顔を返して、あたしは自室へ戻る。
それが、あたしと彼女の、最期の会話。
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