姉と薔薇の日々

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「名字が首堂(すどう)だからもしかしたらとは思ったよ」  まさかお前と彼女が姉妹だなんて……世の中間違ってるよな。  彼はしょっちゅうあたしに向かって言っていた。確かに、誰もがそう言う。 「あたしもあんな女が自分の姉だったなんて信じられない」  ベッドサイドの文机に、白いカップを並べて薄いコーヒーを注ぐ。  小さな部屋をコーヒーのほろ苦い香りが占領する。窒息してしまいそうだ。 「餞別の言葉が“ダイキライ”よ。こんな姉妹、いるかしら?」 「でも、セリカが言うと、“ダイスキ”に聞こえるのは俺だけかな?」  コーヒーの匂いに混じって、諫早の汗の匂いが鼻孔をくすぐる。 「まさか。今もあたしは大嫌いよ。あんな女……」 「セリカがそう言うなら、信じるけど」  ブラウスに袖を通して、あたしは立ち上がる。 「無断外泊で叱られるんじゃねぇか?」 「カエデに頼んでおいたから平気よ」  浦野楓(うらのかえで)。あたしの通っている高校の寮のルームメイトだ。 「慣れてるよな」 「まぁね」  皺の寄ったスカートの襞を正してから、鞄を持つ。 「行ってきます」  あたしは彼の額に接吻をして、扉を開く。  太陽の光りと、爽やかな春の風が、コーヒーの匂いをぬぐい去る。  今日が、はじまる。
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