姉と薔薇の日々

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   * * *  彼女のことを姉と呼ぶことに、あたしは反発する。  なぜなら彼女はあたしを妹扱いしなかったから。  だから、彼女のことを姉と言って紹介したのは諫早だけだ。  それ以前に、あたしに姉がいたことを知ってる人は、ここにいないのだ。 「明日の実習、横浜だって」  遅刻してきたあたしに、楓が言う。 「横浜?」  その地名に、あたしは思わず硬くなる。 「どした?顔色悪いよ」 「え、そんなことないって」  あたしが通っているのは、私立高校の看護科で、あたしはこうみえても看護婦の卵だ。  看護科に通う生徒は半分が寮生で、あたしや楓のように二人で一部屋を使用している。  三年間通って試験に受かれば准看護士の資格が得られる。  二年になって実習に連れだされることが増えた。今回は横浜の病院に行くそうだ。  退屈な数学の授業。  机に頭を乗せて空を見上げる。  ……横浜。  三年前、彼女が死んだ場所。あれから行っていない。もしろ、行きたくもない。  思い出したくないのかもしれない。
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