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彼女が、あんな風に死んだ場所のことを……
「横浜って、三年前にアレがあった場所でしょ?怖くない?」
「嘘、アレって横浜で起こったの?初耳ィ」
廊下で無邪気なクラスメートの声が響く。
そう、アレがあった場所。
口に出すのも憚られてしまう、おぞましい出来事が。
楓があたしの青白い顔を見て不安そうにしている。
「昨日寝てないんじゃないの?彼氏の家で」
「そうじゃないよ、心配しないの」
寮へ続く道を抜け、カッテージチーズのようにぬっぺりとした白い建物に入る。建物は三階建てで、見た目は狭そうだが、奥行きがある。
「何か悩み事? もしかして彼氏とうまくいってないとか」
「そうじゃないよ。彼とは順風満帆だもの」
諫早とは四年の付き合いだ。この歳にしては珍しく息が長いと自分でも驚く。多分、相性がよいのだろう。性格も、セックスも。
部屋の鍵を楓が開けて、一日振りの部屋に帰る。
「にしてはおかしいね。セリカ、顔に出やすいんだもの」
楓はじっとあたしを見ている。彼女の瞳は少しだけ灰色がかっている。先祖がアイヌだからだ。
そんな彼女の瞳に見つめられると、全てを話してしまいたくなる。
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