姉と薔薇の日々

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   * * *  寮に帰ってきたのは午後六時だった。  郵便受けにあたし宛の葉書があったので、ふと立ち止まって読む。  母からの写真葉書。 「……咲いたんだ、あの薔薇」  写真の裏に、嬉しそうな母の言葉が添えられている。 「咲いたよ! ……か」  消印は九月一日。本当に、秋の訪れと共に開いたみたいだ。  血のように真っ赤な薔薇。  諫早と二人でわざわざ種苗センターまで選びにいった薔薇の苗。  思った通りの花の色が、我が家の花壇で自己主張をしている。よく見るとまだまだ蕾が見える。これからどんどん花をつけるのだろう。 「我が家がパッと明るくなりました。今度小松君と二人でおいで……はい、そうさせて頂きます」  部屋に戻ると先に楓は浴室に行ってしまったようだ。よし、今のうちに日記帳の封印を解いてしまおう。  花瓶の下に、金の剥げた鍵。  あたしの机の上に、日記帳。  カチ。  小さな音を立てて、鍵は開いた。  重々しい表紙をゆっくり開く。  ブホッ。  綿埃が部屋の中へ散らばる。  三年間放置されたままの日記帳。 「……は?」  中身は。
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