微笑む顔の下で

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 人を見た目で判断してはいけないとよく言われるけれど、俺の周りにいる人たちは、実際に見た目で判断していることが多い。  髪の毛が明るく目つきの悪いクラスメメイトが頬に傷を作っているのを見かければ、昨日喧嘩したらしいよ、などと平気で嘘をついてその噂を広めていく。  「ううん、違うよ。彼は昨日俺と遊んでいたし、頬の傷は彼がペットの猫を怒らせてそれで……」と事実を教えようものなら、「彼のこと庇ってあげるなんて優しいんだね」と、俺のイメージまでも操作されてしまう。   俺のどこが優しいんだ? 事実を伝えただけだろう?   自分自身に関することならば、「確かめてもいないくせにそれを信じるの?」と言い張るくせに、他人のことは直接確かめていなくとも、噂に対しての根拠を勝手に用意し、あたかもそれが誰もが自ら確認して得た根拠のように振る舞うのだ。  実際のその人を知っているのはごく一部の人間で、その他大勢は決めつけたイメージを元に判断しているに違いない。  だから俺のことも、知らないところで俺という人物のイメージを作り上げられ、それらに俺の言動を当てはめては、「やっぱり早坂(はやさか)くんってこういう人だよね」と納得されているのだろう。 「そういえば昨日、あの子が喧嘩しているところを見たかもしれない」 「え? 本当?」 「だって殴り合いしていたの、あの髪色の子だったし」 「やだぁ、怖いよ」  大きな声は教室中に響き、噂をされている本人の耳にも届いたようで、唇を噛みしめ窓の外を眺めては無理矢理気を逸らそうとしているその姿に心が締め付けられた。  何も悪くないのに、与えられたイメージ、発せられた言葉により、新たな人物像が作られてしまうのだ。  そしてそれは罪のない本人をも支配してしまう。    しばらくして彼は学校へ来なくなった。  遊びに行っても家のドアを開け迎え入れてくれることはなく、猫がカリカリと内側から爪でひっかく音だけを玄関の外で聞いていた。     悪いことはしていないのだから、何があっても堂々としていればいいのでは? ここで逃げてしまえばイメージを正当化してしまうことになるのでは? と考えているうちに、心配とは別の感情が渦巻いて、何もかもがおかしく思えてきてたまらなくなった。  俺たちの生きている世界はこんなにくだらない世界なのだと齢十歳にして知り、自分は絶対に操作される側になるものかと誓った。
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