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第2章 回り始める物語の章 第14話 ルスカナの街で途方に暮れた
俺たちはルスカナの街に着いた。大きな街だ、ケルンよりも相当デカい。都アステアールには及ばないがアステアでは一、二を争う大都会だった。
領主であるウォーレン家の屋敷は街のほぼ中央に聳えていた。もう城と呼んでもおかしくない規模の屋敷た。ケルンの子爵家とウォーレン侯爵家ではこれほど違うものなのか。ゼノンの屋敷は比べるとケルン子爵の屋敷は大きいと思ったのだが上には上があるものだ。
ウォーレン家の屋敷の前で馬車を停める。巨大な鉄製の門が閉まっている。予定のない客だ、開くはずがない。
セリスが馬車を降りて門番に話しかける。
「私よ、開けてちょうだい。」
「これはセリスお嬢様、よくご無事でお戻りになられました。今開けます。が、その者たちは?」
「私の客です。心配しないで。」
セリスの言葉にあまり納得していなかった門番だったが門は直ぐに開いた。馬車ごと中に入る。門の中も広大だった。暫らく建物の間や森のような場所を通って中心の屋敷に着いた。ここがウォーレン侯爵の住まいのようだ。
「ここで少しお待ちください。」
そう言うとセリスは屋敷の中に入って行った。ここには門番はいないようだ。俺とジョシュアは手持無沙汰で待っていた。中の状況が判らないのは面白くない。セリスが侯爵や家族に色々と説明しているのだろう。それにしても時間がかかっている。
「暇だな。」
「遊びに来たんじゃないんだぞ、少しはちゃんとしておけよ。」
「いいじゃないか。こんな外で待たされるなんて、いくら侯爵家だとしても非常識極まりない。」
「俺たちの身元が問題なのだろうさ。ちゃんと調べたら、摘まみだされても仕方ない。」
「それはお前だけだろう。俺の身元は、まあ、変かな?」
「変、というか、異常だろう。少なくとも俺は異世界から来たなんて聞いたことも勿論会ったことも無かった。」
「でも、前にも居たらしいぜ。ゼノンが会ったって言ってたし。それにしても遅い、いつまで待たせるんだ。は腹が減ったぞ。」
あまりにも暇なので俺はジョシュアを揶揄って遊んでいた。が、ジョシュアはあまり相手にしてくれない。冷たい奴だ。確かにジョシュアの素性をちゃんと調べられたら追い出されるどころかルスカナ守護隊に突き出されても文句は言えない。
俺と言えば、異世界から来た、なんて信じてもらえるかどうか不明だ。但し、ケルン子爵家に異世界から来た男がいる、という噂を聞いて、というのが本当のことならば、とりあえずは信用してもらえるのかも知れない。
だが本当に信用を得ようとしたら異世界から来たことを証明する必要がある。何か奇跡でも起こすか。まあ、そんな力がないことは自分が一番知っているのだが。
それにしても一つくらいチート能力があってもよさそうなものだ。向こうの手違いでここに来たのだ、望んできたわけではない。扱いが雑過ぎないいか?
大きなドアがやっと開いた。出てきたのはセリスではなかった。
「ウォーレン家の執事長、レシルノ・アンバーと申します。」
出てきた初老の男性は丁寧に名乗った。アンバー?聞いたことある名だな。確かゼノン家の執事長もアンバーだったはず。有り触れた名前なのか。
「俺は沢渡幸太郎。こいつはジョシュア。ジョシュアなんだっけ?」
「レストです。ジョシュア・レスト。セリスお嬢様はどうされましたか?大丈夫ですか?」
「セリスお嬢様は、お疲れになられたご様子で既に自室でお休みになられました。ここまでお嬢様をお連れ頂きありがとうございました。では、私はこれで。」
「えっ?」
ここで、このまま帰れと言うのか?
「それだけか?」
「と言いますと?他に何かございましたか?」
レシルノは平然と答える。
「いや、セリスを呼んでくれないか。このまま帰れというのはいくら何でも酷い。」
「セリスお嬢様が何かお約束でもなさいましたか?いずれにしても、もうお休みになられております、後日改めてお越しください。」
そう言い残してレシルノは扉を閉めた。取り付く島もなかった。
俺とジョシュアは仕方なしにウォーレン家を出た。多分に度と入れないのだろう。セリスがどうなったかは全く判らなかった。
「どうするかな。」
「セリス様を助けないと。」
ジョシュアは真剣な目で俺に迫る。と言っても、ケルンに居た時のように後ろ盾も居ないし金もない。ルスカナに知り合いも居ない。どうしろと言うんだ?勿論今日の宿もない。
「助ける、って自宅に帰っただけじゃないか。監禁されている訳でもないだろうし。」
「いや、監禁されているに違いない。また意に沿わない結婚を強要されているんだ。」
何の妄想だ?まあ、強ち間違っていない可能性もあるが。
「お前はセリア様がどうなってもいいと言うのか?」
「いや、そういう訳ではないけど実際問題俺たちに何ができるというんだ?そもそも屋敷には入れないと思うぞ。」
ジョシュアは考え込んでしまった。俺が言うことが正論だとは理解しているのだ。助けたくとも方法が無い。
「とりあえず宿を決めて、そこで考えよう。腹が減ってもう駄目だ。」
それはジョシュアも同感だった。屋敷でごちそうになるつもりでいたのだ。俺たちは食料を買い込み出来るだけ安い宿を探した。路銀に余裕はない。
なんとか安い宿を見つけて落ち着いた。簡易な夕食を済ませるとジョシュアは宿の場所を書いた紙をセリスに届けてもらうよう頼んでくる、と出て行った。そんな物を渡してくれるはずがないと思うが、ジョシュアは結果が判っている事でもほんのわずかな可能性に掛けたいのだ。
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