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第2章 回り始める物語の章 第15話 ルスカナの街で聞き込みをしてみた
落胆してジョシュアが戻って来た。当り前だ、あんな追い出し方をされたのだ、手紙など渡してくれるはず゛もない。変に預かられて期待を持ったのに影で捨てられていた、というよりはまだマシだろう。
「とりあえず一晩寝て明日考えよう。いい案が浮かぶかもしれないし。」
気休めだがそう言うと俺はジョシュアより早く就寝した。ジョシュアはまだ眠れないのだろう。俺は駄目な時は何をやっても駄目なことを知っているので寝るしかないと思っていた。
翌朝、俺が起きるとジョシュアはもう起きていた。もしかして寝なかったのか?
「おはよう。おい、まさか寝なかったのか?」
俺がそう言うとジョシュアは返事もしなかった。
「まあいい。でも寝ないと動けないぞ。それと食べなくても動けない。今日どうするにしても体力勝負だと思うならちゃんと寝てちゃんと食べろよ。」
ジョシュアはなぜかとても納得した顔で
「判った、ちゃんと食べる。すまない、お前はもう諦めたのかと思った。」
いや、実は諦めているんだが。
俺たちは朝食を済ませて街に出た。情報収集が肝心だ。とりあえず商店が並ぶ辺りを散策する。やはりケルンの街とは比べ物にならない規模だった。並んでいる商品も見たことが無い物が多い。
南方の果物、北方の熊のような動物の毛皮、多分アクセサリーであろう煌びやかな飾り物。
「おやじさん、この街の領主様はどんな人なんだい?」
「なんだね、お前さんは旅の人かい?」
「そうそう、ケルンから来たばかりなんだ。いい領主様ならここに居つこうかと思ってな。」
嘘はそれほど言ってない。
「ここの領主様はいいお方だよ。儂ら商人にも税は軽くしてくださっている。アステアールと比べると半分以下だしな。特に今のガルド様になってからは本当に暮らしやすくなっている。儂は生まれがこの街だが一度もここから出たいと思ったことはない。あんたも直ぐにこの街で骨を埋める気になるよ。」
老店主は領主をべた褒めだ。逆に胡散臭いと感じる俺は天邪鬼なのだろうか。何か裏がある気がする。その辺りを聞き出すのは骨だな。
「いい父親じゃないか。これならセリス様も安心だろう。だがこのまま帰る訳にも行かないし、どうしよう。」
「ジョシュア。」
「なんだ?」
「お前、もしかしたらいい奴なのか?」
「お前は俺をなんだと思っているんだ?」
「人攫いのボス。」
「それは昔の話だろう、蒸し返すな。」
老店主の話を鵜呑みにしている。他人を疑うことを知らないのか。それでよく悪党の頭目が務まったな。ただ単に有能だから頼られていた、という感じか。
「悪いな。でも、本気でいい領主だと思っているのか?」
「違うのか?」
「多分な。そんな領主は長続きしないさ。領民が領主をべた褒めなんて気持ち悪いだけだ。」
「お前、なんだか考えが歪んでないか?」
「60年近くも生きてると自然こうなってくるもんだ。いずれにしてもセリアは監禁されている、と見るべきだろうな。」
「やはりそうなのか。」
「間違いないな。そのうえで、どうするかだ。」
「どうするって?」
「助け出すか、見て見ぬふりをするか、の二択だ。」
「助ける。」
ジョシュアには迷いが無い。
「命がけになるぞ?」
「それでも助ける。でもお前はどうするんだ?」
「俺か、俺はまあお前に付き合うさ。」
俺は正直どちらでもよかった。セリアにそう思い入れもない。ジョシュアも親友とかそんな存在でもない。俺が命がけでジョシュアを手伝う理由は無かった。
「まさか、お前も?」
「いやいや、そんな事じゃないさ。俺はもうすぐ60歳、彼女は孫のような年齢だ。」
「元の世界に孫が居るのか?」
「結婚すらしていないさ。」
「結婚?」
「ああ、夫婦になるという意味だ。この世界には制度としての結婚は無いんだよな。好きな異性と一緒に暮らして子供を作ったりすることだよ。最近は作らない夫婦も多いけどな。」
「元の世界の話か。」
「そうだ。結婚しない、子供も作らない、俺が居た日本って国はどんどん人口が減ってきていた。この世界はまだ人は増えているようだな。」
「そうでもないぞ。戦争がある都度大勢の人が死ぬ。それで俺たちみたいな孤児が増えてしまう。ちゃんとした働き口が無いので悪いことに手を染める。生きていくのは大変なんだ。」
ジョシュアは少し視線を落として吐き出すように言った。
「よし、宿に戻って作戦会議だ。」
俺はなんだか逆にやる気が出てきた。自分でもよく判らないがセリアを助けて屋敷から連れ出すことにした。でも、連れ出してからはどうする?まあ、助け出す前から考えても仕方ないか。出たとこ勝負だ。
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