第1章 始まりの章 第7話 始まりの街で人助けしてみた

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第1章 始まりの章 第7話 始まりの街で人助けしてみた

「手下どもは仕方ないとして、お前だけなら助けられるかも知れないぜ。」  その手の話には嫌悪感を示すタイプだとは思ったのだが背に腹は代えられない筈だと思った。 「俺に部下を売れと言うのか。」 「いや、積極的に売るなんてしなくても奴らは直ぐに捕まるさ。お前はそれを黙認すればいい。何もしない、ただそれだけだ。」  男は少し考えて続けた。 「それで俺はどうなる。部下たちは俺の命令だと正直に話すだろう。それでも俺は助かるのか。」 「だから助かるんだよ。知識も知恵もないただの有象無象ではないことを強調するんだ、役に立つとな。俺が先に話を付けておいてやってもいい。先に開放してもらわないと無理だがな。」 「そしてそのまお前は逃げて俺は普通に捕まる、って寸法か。その手は食わない。」  やはりただのチンピラではない。普通に頭は回る。 「そうだな、そう思われても仕方ない。だったら俺と一緒にここから逃げる、ってのはどうだ?」 「逃げる?」 「そうだ。とりあえずここは危ない。直ぐにゼノンの手が回るだろう。お前たちが刺激してしまったからな。俺の生死よりも自分の職責を優先する男だ。だから、ここに居たら捕まってしまうのはどうしようもない。」 「それで逃げる、のか。」 「一旦逃げて俺と一緒にゼノンの屋敷に戻ればいい。その時にちゃんととりなしてやる。」  男は少し考えていた。結論を急がないと逃げる暇が亡くなってしまうかも知れない。 「判った、それで行こう。裏切るなよ。」 「だったら拘束は解かないでいたらいい。その方が此処からも出やすいだろう。」  人質を別の場所に移す、という名目が立つ。手下たちは単純だ、自分たちが見捨てられた事に気が付くのはゼノンたちがやって来て捕まった後だろう。  こうして俺は一応危機的状況を逃れた。あとはこの男だ。俺はどうしようか、迷っていた。 「おい、そろそろこれを外してくれてもいいんじゃないか?」  後ろ手に縛られていたので移動しずらい。 「まだ駄目だ。俺を嵌めていない、ということが確認できるまではな。」  男は慎重だった。男の案内で裏道を選んで東街へと向かう。今ごろゼノンが踏み込んでいるだろう。一網打尽だ。ここでの罪の軽重はよく知らないが極刑だったら申し訳ない。ただの好奇心で西街を訪れた結果がこれだ。自分の所為で人が死ぬのは異世界とはいえ忍びなかった。そこまで考えて俺はその男を本当に救うことを決めた。ちゃんと庇ってやろう。場合によっては自分の召使程度にはしてやってもいい。  ゼノンの屋敷が見えて来た。屋敷に入る前には、さすがに縄を解いてくれた。腕をさすりながら俺は男と一緒に屋敷に入った。 「コーターロー様!大丈夫だったんですか、心配してたんですよ。」  シノンが駆け寄って来た。本当に心配していたようだ。サラも出て来た。 「コータロー様、ゼノン様はあなたを助けに行かれたと思いましたが、一緒ではなかったのですか?」 「この人に助けてもらって逃げて来たんだよ。ゼノンはまだ戻ってないんだな。」 「そうです。ゼノン様はコータロー様を助けにいかれたのですが、ご一緒ではなかったのですか?」  サラはいつもこうだ。俺を責めている。ゼノンが折角助けに行ったのに勝手に戻ったことを怒っているのだ。 「判ったサラ、ゼノンの所に行ってくる。」 「そうしてくださいませ。ゼノン様はコータロー様がいらっしゃらないと判断に困られると思います。ぜひ行って無事だとお伝えください。」  サラの言う通りだった。俺が攫われたと聞いて踏み込んだ現場に俺が居なかったら、その後どうすればいいかわからないはずだ。どこかに連れ出されたと聞いても、手下たちは本当に何も知らないのだ。  男を屋敷に置いて行く訳にも行かないので、俺と男は連れだってゼノンが居るであろう男の元の拠点へと向かった。 「そういえば名を聴いていなかったな、なんと言うんだ?」 「俺の名はジョシュア、ジョシュア・レストだ。そういうお前は何と言うのだ。」 「俺か、俺は沢渡幸太郎。」 「サワタリ?変な名前だな。コータローというのも聞いたことが無い名だ。本当にへんな奴なんだな。」 「放っておけ。俺の元居たところでは、それほど変な名前ではないんだ。」 「元居たところ?お前はどこから来たんだ?旅人か?」 「言っても信じないよ。ゼノンは信じたがな。」  この世界で異世界転生はありふれたことではないようなので、ジョシュアが知っていたり理解してくれるはずもない。ゼノンの父ラール・ストラトス准男爵からは鼻で笑われた。  現場に着くと手下どもは全員捕まっていた。俺はジョシュアに自分も捕まっている風に魅せろ、と伝えてゼノンの元に連れて行った。 「おお、コーターロー、無事だったか。ここに居なかったから心配したぞ。」  本当に心配していたのだろうが、身代金を払わずにアジトを強襲しているのだ、俺が死んでいても仕方ない、と割り切っているはずだった。 「まあ、なんとかね。それでこいつのことなんだけど。」 「なんだ、そいつは。そういえばリーダーがお前を連れて行ったと皆が言っていたが、もしかしてそいつがリーダーか?」 「そうなんだが、こいつのお陰で俺は無事逃げられたんだ。こいつの身柄を俺に預けてはもらえないかな。」 「そんなことが出来る訳ないだろう。」  ゼノンの方が正論だった。ただ俺も一度言いだした手前、引き下がれない。 「じゃあ、俺は今からこいつと逃げることにする。」 「おい、まさか本気じゃないだろうな。」 「本気だ。ちょっとの間は追わないでくれると助かる。」  ゼノンは少し考えて、ため息を吐いた。 「判った、判った、俺の負けだ、その男はお前に任せる。だからここから出ていくなんて言わないでくれ。」  ゼノンと俺の関係の一番の急所だった。ゼノンには俺から異世界の話が聞けなくなる、という事が一番嫌だったのだ。ジョン・ドウの時は何も言わずに去ったらしい。その二の舞は踏みたくなかった。  こうしてジョシュアは西街ギャング団のリーダーから東街の住人となったのだった。
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