第1章 始まりの章 第1話 始まり始まり

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第1章 始まりの章 第1話 始まり始まり

「なんだ?」  自問してみた。 「何が起こった?」  さらに自問。誰も応えはしない。当然だ、ここには俺一人しか居ない。 「ちょっと待ってくれ、ホントに何が起こっているんだ?」  何が何だか判らない。  整理してみよう。朝起きて仕事に出た。車通勤なので社用車に乗っていつもの道を走っていた。  俺はしがないサラリーマンだ。勤務地は地方の中核都市ですらない小さな街だった。  この県からは出たことはない。住所も学校も仕事先も、という意味だ。何回か職場は変わったが、同じ県内で移っただけだし、職種は冒険しない主義なので全部不動産業だった。  大学も出ていない俺は、その不動産業も自ら選んでやりたかった職種ではなかった。ただ、なんとなく受けた会社が不動産業で、そのまま40年、いろいろと浮き沈みを経てあと2年で定年、というところまで漕ぎ着けたのだ。  それが突然なんだ、この状況は。誰か説明してくれないのか。  あれか、流行りの異世界転生、とかいうやつか。それならそれで説明してくれよ。それと異世界転生なんて若いやつの話じゃないのか。俺は定年2年前の、もう初老と呼ばれても頷きたくはないけど頷かないわけにもいかない微妙なお年頃なんだぞ。 「誰か、返事してくれよ~。」  とりあえず辺りを見回してみるが、何もない。無、だ。真っ白だ、精神と時の部屋か。あれでも入り口の所には建物があったぞ。  あれか、床と壁と天井が白いから錯覚していて実は狭い部屋ってやつか。  そう思って真っすぐ歩いてみたが、歩けど歩けど何もない。ただの真っ白な世界だ。 「助けて、ホント、誰か助けてくれよ。せめて説明してくれ。俺は死んだのか?死んだんだよな。多分交通事故かなんかで死んでしまって、ここは死後の世界、ってやつなんだよな。」  返事がない、ただの屍のようだ。違う、屍なんて無い。何もないのだ。  ここへきて何時間経ったのだろう。それは突然現れた。 「あっ。」 「あっ、ってなんだよ、あっ、って。」 「ああ、って、あれ?なんで?」 「なんで?ってこっちが聞きたいんだけど。」 「ちょっと待ってね。」  突然現れたのは、なんか変な服を着た女だった。これが異世界に誘う女神ってやつか?それにしては、ちょっとしょぼいんじゃないか。普通女神っていったらもっと絶世の美女だったりしないのか。割と平凡な、それほど若くもない女神(?)のようだ。 「わかった。そか。どうしよう。」 「どうしよう、って何が。」 「えっと。沢渡さん、沢渡幸太郎さん、あなたは死にました。」  やっぱり、私は死んだのか。 「と言うところなのですが、実は手違いであなたは本来死ぬ時ではありませんでした。」 「えっ、それはどういう意味?」 「死ぬタイミングではないのに死んでしまった、とか?」 「とか、って冗談だろ?」 「ところが冗談ではなく、あなたは死んでしまったのです。予定のない死亡だったので気が付かなくて、もうあなたの身体は焼かれてしまいましたので、蘇生できません。」 「身体があったら蘇生できたのか。」 「そうですね、身体さえあれば。」 「ってことは、あれか、予定外の死亡でお前が気が付かなかったから、蘇生できるタイミングを逃してしまった、ってことか。」 「そうとも言います。」 「そうとしか言わないわ。で、どうするんだよ、俺は死んだままなのか。」 「そうですねぇ、実は予定にない死だったので、こっちに空きが無いんですよ。かと言って戻ることもできないし、さて、どうしましょう。」  こいつは駄目だ。責任感もなければ判断能力もない。なんでこんな奴が女神なんてやってんだ。 「どうしましょう、じゃない。どんな選択肢があるんだよ。」 「そうですねぇ、どっかの異世界にでも転生します?」 「なんで疑問形なんだよ、他に選択肢はないのか。」 「他にですか、そうですねぇ、特にありませんねぇ。」 「無いのかよ。一択じゃないか。普通は死んだらどうなるんだよ。」 「普通は死んだら地獄行きですよ。」 「それも一択なのか?」 「そうですねぇ。とりあえず地獄に落としといたらいいかなぁ、なんて。」 「あんたさ、いつから女神やってんの?」 「女神?私は女神なんかじゃないですよ、私の名前は閻魔小百合といいます。閻魔大王の末娘ですよぉ。」 「そのしゃべり方、なんとかならないかね。というか閻魔様だって?」 「そうですよぉ、閻魔様は私の父です。そして私は108番目の娘、小百合です。」 「108人も娘が居るのか。息子はいないのか?」 「息子なんて居ないですよぉ。お父様は女の子しか欲しがらないので。」 「なんか鬼畜だな。まあいい、それで全員地獄に落ちてしまうのか。」 「そうですよぉ。一旦は全員地獄行きです。産まれてから一度も殺生していないならいきなり天国ってのもアリだと思うんですけど、あり得ないですしねぇ。生き物や植物を食べたり、小さな虫なんかを踏んで殺したりしない人は居ないですから、みんな一旦は地獄ですよ。その中で現世で徳を積んだ人だけ天国に登れるれるチャンスがあるんです。」 「そっか、で俺は地獄にも行けないんだったな。」 「そうなんですよぉ。定員ってのがありましてい予定のない死人に入る余地は無いんですよぉ。」 「それで異世界、ってことか。異世界は一つなのか?」 「異世界は一つですねぇ。でも現世より遥かに広いので何でもアリの世界です。」 「なんでそんな世界があるんだよ。」 「そうですねぇ、気まぐれ?」 「暇を持て余した神様の遊びか。」 「ああ、そんな感じです。」 「そんな感じなのかよ。それで、俺はそこに転生するんだな。お約束のチート能力とかはあるんだろうな。」 「チート能力?なんですか、それは。」 「俺だけが使える超特別な魔法とか、反則級の能力のことだよ。」 「そんなのある訳ないじゃないですか。普通の世界ですよ、異世界は。」 「えっ、魔法と剣の世界じゃないのか?」 「ああ、それはそうですけど、あなただけの特殊能力なんて、そんな簡単に手に入る訳ないじゃないですかぁ。」  やはり駄目だ、こいつは。完全にやる気がない。 「では、行きますね。」 「ちょっと待ってくれよ。本当にこのまま異世界に転生させられてしまうのか?」 「だからぁ、さっきからそう言ってるじゃないですかぁ。文句言われてもどうしようもないんですよぉ。いきますよぉ。」  一瞬だった。そこはもう異世界だった。日本の田舎の風景のような、まあ外国でも田園地帯は似たようなもんだろう。異世界なんて大抵はこんなもんだ。  俺はRPGとかアドベンチャーのゲームからはとうに足を洗っていたから最近の流行りはよく判らない。知識はドラクエⅢあたりで止まっている。大丈夫か?魔法とかは普通に使えるのだろうか。  MPとかHPとか初期値はどうなってる?職業やスキルは?結局何の説明も無しかよ。  少し歩いてみた。ただの田舎道だ。舗装もされていない。まあ、剣と魔法の世界なんて大体こんなものだろう。  しばらく道のように続いているところを歩いていると街が見えて来た。始まりの街か。ここで装備をそろえて近くの弱いモンスターを倒して経験値を上げて強くなるんだな。  ん?そもそもここでの最終目的はなんだ?  魔王を倒す、とか世界が滅びるのを阻止する、とか色々とあるだろうに。あいつ、何の説明もしやしなかった。何を目的に冒険を続ければいいんだ?  まあいい、とりあえずは街だ。  始まりの街はそれほど大きな街ではないようだった。入り口に門のようなとろこあった。看板が掛かっている。読めない。おいおい、何語だ?見たことない。そこからかよ。もしかしたら言葉が通じないとか?マジか。これはかなり拙い状況かも知れない。 こうして俺の異世界生活が始まった。直ぐに終わりそうだが。
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