9人が本棚に入れています
本棚に追加
夜道の二人
「…………切れたか」
前回の外出で煙草をカートン買いしたが、苛立ちと痛みを紛らわす為に煙草を咥えていたせいで、すぐに煙草が切れてしまった。
俺が舌打ちをして煙草を買いに部屋を出ると、玲も黙ってついてきた。
夜道を歩き、コンビニへ向かう間も、玲は無言だ。
俺は峻也の言葉を思い出す。
今隣にいるのは恐らく、自分が森塚玲だと思い込んでいる山梨大地だ。
推測だが、山梨大地は自分のせいで玲を殺してしまったという罪悪感から、自分が森塚玲だと思い込み、森塚玲として振る舞うようになった。
では、森塚戒はどうだろう?
大切な妹を山梨大地のせいで失った森塚戒は、山梨大地を恨んでいるのかもしれない。
では、何故森塚戒は山梨大地と同じアイドルグループに所属して、何事もなかったかのように振る舞っている?
「陽さん」
突然、聞き覚えのある声がした。
振り向くと、ディスコルディアのドラマー、三輪碧海がそこに居た。
隣には、ハルモニアのメンバーである西蒲潤がいた。
柔和で人懐っこい笑みを浮かべた碧海と、無表情の西蒲潤。
対象的な二人だ。
「珍しい組み合わせだな」
「そうでもないですよ。潤くんとは幼馴染のようなものです」
ねぇ、潤くんと笑顔で問い掛ける碧海に対し、無表情に頷く西蒲潤。
どっちがアイドルでどっちがバンドマンだと思わず突っ込みたくなる。
「…………で、こんな夜更けに何の用だ? 碧海、お前は実家暮らしだろう」
「陽さんは煙草が切れたんですか? 程々にしないと駄目ですよ」
「うるせぇな……」
俺の外出理由を簡単に言い当てる碧海に、思わず不貞腐れる。
そんな俺に対し、微笑みながら碧海は言う。
「…………とはいえ、今の陽さんに“程々”にするのは難しいですよね? つい煙草に手を伸ばしちゃいますよね?」
「何の話だ?」
碧海は笑みを浮かべながら口にする。
「下腹部に、紫の刺青のような痣……ありますよね?」
思わず息を飲む。
「下腹部に鈍い痛みがありますよね? 痛みがあるからついイライラして煙草に手を伸ばしちゃいますよね?」
峻也と同じことを尋ねてくる。
峻也と違うのは、碧海の方が断定的だ。
「甘い花の香りがしますよね? その甘い花の香りは時折、噎せ返るくらい強烈な香りになりますよね?」
「お前は何を言っているんだ?」
笑みを浮かべたまま、碧海は動いた。
俺の背後に回り、背後から俺を拘束する。
「潤くん」
碧海の言葉に、西蒲潤が頷く。
西蒲潤が手にしていたのは…………注射器だった。
最初のコメントを投稿しよう!