第一章 エピローグ

1/1
前へ
/22ページ
次へ

第一章 エピローグ

 俺は暗い部屋で目を覚ました。  此処は……何処だ?  見覚えのない一軒家だった。  ガサッ。  俺は手に何かを握り締めている事に気がついた。  それは、紙のようだった。  俺はゆっくりと起き上がり、震える手でその紙を開く。 『お父さんへ れいなより』  娘、麗奈から俺に宛てた手紙だった。  何故、俺はこんなに大切なものを、こんなにもクシャクシャになるまで握り締めて……。    怒り任せに床を殴ろうとして、傍らにボロボロのウサギのぬいぐるみがある事に気づく。  ウサギのぬいぐるみは、虚ろな瞳でずっと俺を見上げている。  ゾクリ。  背筋に冷たい何かが走った。  その途端、嗅覚が機能し始め……。 「げほっ!!」  俺は思わず咳き込んだ。  噎せ返るような、甘い花の香り。  そして、噎せ返るような血の匂い。  頭の中で警鐘が鳴る。  立ち上がってはいけないと。  周囲を見てはいけないと。    しかし。  俺の身体は警鐘に反して立ち上がり、見知らぬ一軒家の中を見回す。  見知らぬ一軒家には大きなピアノがあった。  そして……。 「雨音、麗奈……」  雨音と麗奈の死体が転がっていた。  雨音と麗奈の死体は、まるで先程のボロボロのぬいぐるみのような虚ろな瞳で、俺を見上げていた。  此処は、雨音と麗奈の新居だった。  また吐き気が込み上げてきて、俺は洗面所へと向かう。  洗面所の鏡には、不気味な男の姿が映った。  全身に鮮血を浴び、顔が紫の紋様で覆われた不気味な男が、鏡の向こうで驚いたように目を見開いていた。  それが自分の姿だと気づいた時には、もう遅かった。  あの日の碧海のように、蕾だった花の紋様が開花していく。  薄れていく意識の中で気づいた。  雨音と麗奈を殺したのは俺だ。  俺は処刑されるべき大罪人なのだ。  噎せ返る花の匂いの中、俺は最後にボトリという音を聞いた。  その音は、俺の首が落ちた音だった。 第1章 終
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加