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イマジナリーフレンド
「碧海、また深夜に潤くんと将剣くんの部屋に来たのか?」
「父さん……あーあ、バレちゃった」
てへっと碧海が笑う。
凍りついた空気が壊れた。
「…………ん? 遠藤灯雅くん?」
「英作先生……」
この三輪紫芍病院の院長で、俺の主治医でもある三輪英作先生。
碧海の親父だったのかと二人を見比べていると、英作先生は俺が腰を抜かしているのがわかったのか、俺を抱き上げた。
「私は灯雅くんを病室に連れて行く。碧海も自分の病室に戻りなさい。また昼間に遊びに来ればいい」
「はーい」
英作先生は碧海の返事を聞いて頷くと、俺を抱いたまま潤たちの病室を出た。
「潤くんはね、事故で家族を全員失っているんだよ」
「家族全員?」
英作先生は頷いた。
「イマジナリーフレンドって知っているかい?」
「イマジナリーフレンド?」
「空想の友達と言えばわかりやすいかな? 潤くんは家族を失った心の傷を癒やす為に、ビャクシンという空想上の友人を作り出したんだ」
「…………」
入退院を繰り返しがちであまり一緒に過ごせないとはいえ、俺の家族は元気だし、弟も可愛い。
そんな家族を一度に失ってしまったのなら……空想上の友達を作ってもおかしくないのかもしれない。
「もしまた彼らの病室に遊びに行くなら、潤くんに話を合わせてくれないか?」
この言葉には驚いた。
もう彼らの病室を訪れてはいけないと念を押されるのかと思っていた。
「碧海にも、灯雅くんのフォローをするように言っておく」
「いいんですか? 俺が遊びに行っても?」
「頼む。彼らの友人になって欲しい」
ビャクシンについては驚いたし、思わず腰を抜かしてしまったけれど、彼らとは仲良くなりたいと思っていた。
同年代の友人。
嬉しくてふわりと笑いながら頷くと、英作先生が俺の頭を撫でた。
それが心地良くて、俺は猫のように目を細めた。
その時、追いかけていた黒猫のことを思い出したが、まぁいいかと気にしないことにした。
「来たぜ!!」
「とーがだ!!」
「灯雅くん、ひさしぶり」
「灯雅、喘息は落ち着いたのかよ?」
「あの程度の発作でくたばる俺様じゃねぇぜ!!」
あの日から、俺は喘息が落ち着いている時は潤と将剣の病室に足を運んだ。
俺は碧海、潤、将剣の三人と、もう一人……。
「こんにちは。あ、灯雅さん。喘息落ち着いたんですね」
「おう。ひさしぶりだな、煌也」
後のディスコルディアのマネージャー、鳴宮煌也とも親しくなった。
「ビャクシンも心配してたぞ」
「…………すまねぇな、ビャクシン」
「ビャクシン、灯雅くんのこと結構気に入ってるからね」
ただ、ビャクシンの話題については、今でも戸惑ってしまう。
英作先生の話と潤の話に食い違いがあるのだ。
英作先生は、潤の家族は事故でなくなったと言った。
しかし潤は、自分を虐待し続けた家族をビャクシンが殺してくれたかのように語るのだ。
困ったことに、碧海も将剣も煌也も、潤に話を合わせる。
俺も潤に話を合わせながらも、潤の家族への憎悪に時々ゾクリと背筋を凍らせた。
潤の家族を殺したのがビャクシンというのはあり得ないと思う。
だってビャクシンは存在しないのだ。
でも、英作先生の話と違い、潤は家族を憎悪している。
失った今でも。
そこまで考えて、俺はいつも考えるのをやめていた。
潤が怖い。
でもそれ以上に、せっかくできた友人を失うのが俺には怖かった。
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