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関本夏希
「なぁ、遠藤。お前、ゲームのシナリオ書かねぇか?」
それは大学でできたちょっと……いや、かなりオタクな友人たちとテーブルトークRPG、略してTRPGを楽しんでいる時だった。
「ゲームのシナリオ? 卓ゲのシナリオだったら既に結構な数書いてるけど?」
今楽しんでいるTRPGのセッションも俺がシナリオを書いてきたし、ゲームマスターも俺だ。
「そうじゃなくて…………PCの同人ゲームのシナリオだ」
友人はしどろもどろにそう言った。
はぁん…………。
「エロゲか?」
「そうだよ!! 悪いか!!」
「悪かねぇよ。でも、そのシナリオを俺が?」
「お前なら似たようなシナリオが並ぶエロゲ界でも一風変わったシナリオが書けそうな気がしてな」
エロゲのシナリオか…………。
この時期の俺は、シナリオ制作が楽しくて仕方がなかった。
入退院を繰り返していた時期に知っていれば、もっと沢山のシナリオを生み出せたかもしれないと後悔しているくらいに。
「いいぜ。俺に任せとけ!? 超エロいシナリオを書いてやらぁ」
「いや、遠藤のその顔で超エロいシナリオを書かれても、それはそれでちょっと……」
「何だよそれ。じゃあ頼むなよ」
「いや、書いてくれ!! 頼む!!」
結果的に、俺が参加したアダルト同人ゲームは、俺や友人たちの想像を超えるヒット作となった。
コミカライズに始まり、アニメ化、コンシューマーゲーム化し、俺は遠藤遼雅と呼ばれるより、ペンネームである関本夏希で呼ばれることの方が多くなった。
そのことに、少し安堵した自分がいる。
遠藤遼雅は借り物の名前だ。
俺の本当の名前じゃない。
だから関本夏希という自分の名前が定着したことに、俺は安心感を覚えた。
年を重ねるごとに、俺は小説を執筆したり、アニメやドラマの脚本を執筆するようになった。
特に人気漫画の実写ドラマや映画の脚本には定評があった。
長年オタク社会に浸っていたからだろう。
俺とハルモニアの道が再び交わったのは2018年。
俺は戒主演のドラマの脚本を手掛けることになった。
「こういう形で再会するなんて思わなかったな。えーっと…………」
「関本夏希な。遠藤灯雅はもう俺の名前じゃねぇ」
「…………悪い」
「いや、俺が撒いた種だ。悪いのは俺だ。戒は悪くねぇ」
「そうだな。俺をカッコ良く描いてくれたら許してやる」
「何だよ、それ。相変わらずだな、お前」
戒は笑った。
つられて俺も笑う。
それから俺は、何度か戒と会うようになった。
脚本の相談で戒のマンションを訪ねることも何度かあった。
「何だかちょっと妬けますねぇ」
大学の後輩でフリーのジャーナリスト兼ノンフィクション作家の時成秀治が口を尖らせる。
「妬けるって、何が?」
「夏希先輩と森塚戒のことです」
「ただの昔馴染みだっつーの。あっちはアイドルだし、彼女の一人や二人いるだろ?」
「二人いたらアイドルとして大問題だと思うんですが……」
まぁ、こんな感じで、色々あったが、俺の人生は結構充実していた。
あのままアイドルやってたら、こんな人生は送れなかっただろうな。
ほんの少しだけ、遼雅に罪悪感を感じる。
遼雅に、遠藤灯雅を押しつけてしまった……そんな気がして。
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