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調査依頼
「しかし、不可解な点もあります」
時成がそう口にした。
「現時点で月見里組は夏希先輩の両親や夏希先輩を害するような動きを見せていません。それどころか、夏希先輩の両親をマスコミなどから積極的に守っています」
社長か?
でも、時成の話が本当なら社長は弟を失い、弟を殺したのは遼雅ということになる。
弟を殺した遼雅の両親……俺の両親を守る理由がない。
いや。
そもそも、遼雅は本当に人を殺したのか?
社長は月見里組の娘だった。
社長が弟である大地と阿妻瑞樹、そして遼雅を殺して犯人を遼雅に仕立て上げた可能性は?
あの場には戒と潤もいた。
戒と潤もグルで口裏を合わせた?
でも、それなら何故俺は生きている?
俺も殺してしまった方が口裏を合わせやすいのでは?
昔馴染みの潤や戒、社長を疑いたくない。
だが、遼雅の殺人の自殺に納得できない自分がいる。
「時成、頼みがある」
「はい、何でしょう?」
「調べて欲しいことがある」
「調べて欲しいこと?」
「ひとつ。ハルモニアとディスコルディアのメンバーの出自や過去」
「森塚戒や西蒲潤、鵜飼将剣や三輪碧海についてもですか?」
「あぁ、そうだ。昔馴染みであるが故に聞き辛いこともある」
潤の過去については今だに聞くことが出来ていない。
将剣や碧海についてもだ。
彼らが何故入院していたのか、今は元気に音楽活動をしているのか、詳しいことは聞けていない。
「ふたつ。事務所の人間の出自や過去。特に、月見里社長とマネージャーの姉弟、鳴宮菜々花と鳴宮煌也について」
「月見里組についてもですか?」
「危なくない範囲で頼む」
月見里組についても調べて欲しいが、時成を危険な目には合わせたくない。
だから“危なくない範囲で”と添えた。
「最後。刺青のような紫の痣が全身に広がる奇病について」
「…………え?」
時成が困惑したように俺を見る。
「もしかしたら、“ししゃくびょう”という名かもしれない」
鎮静剤を打たれる直前、白い髪に赤い瞳の男が確かにそう口にしていた。
あの男は一体何者なのか?
幽霊……とは考えたくないが。
「わかりました。夏希先輩の為です。時成秀治、精一杯尽力します」
「…………時成」
「そういえば、夏希先輩のパソコンを持ってきました。調べたことはメールで夏希先輩のパソコンに送ります」
確かに、LINEでスマホに送れるような内容ではないな。
「頼む」
「任せておいてください」
時成の存在が、今はとても心強い。
「ありがとう」
そう言って微笑むと、時成も表情を和らげた。
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