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時槻御三家
あれから数日……。
俺は時成が持ってきてくれたノートパソコンで仕事をしながら、時成から届いたメールを確認する日々を送っていた。
まず驚いた事。
戒は月見里社長の従兄弟だった。
つまり、殺された山梨大地の従兄弟でもある。
戒には妹がいた。
森塚玲。
過去形なのは、森塚玲はかつて月見里組のいざこざに巻き込まれて死亡しているのだ。
そして、その月見里組のいざこざに巻き込まれたのは森塚玲だけではない。
山梨大地は、月見里社長の腹違いの弟だった。
所謂私生児というヤツだ。
山梨大地は自分が月見里組の組長の子息だという事を知らず、一般人として暮らしていた。
そんな中で月見里組のいざこざに巻き込まれた。
山梨大地と森塚兄妹の関係はわからない。
しかし、森塚玲を失って以降、山梨大地は親しい者には「自分は玲という名で、女だ」と口にしている。
もちろん、山梨大地は肉体的には男だ。
月見里組の内部に切り込んだ時成の手腕に、俺は思わず舌を巻く。
次に、潤の過去。
潤の家族は何者かに殺されている。
唯一生き残った潤は「ビャクシンが殺してくれた。ビャクシンが自分を守ってくれた」と何度も口にしたそうだ。
潤が虐待を受けていたのは近所では有名な話で、警察はビャクシンなる人物を探したが、結局見つからず、事件は迷宮入りとなった。
「ビャクシン」
俺は思わずその音を唇に乗せる。
「ビャクシンはいる」
「びゃくしん、いる」
「ビャクシンはいるよ、灯雅くん」
幼い俺を、見開いた瞳で見つめる潤と将剣と碧海。
あの瞬間の寒気を思い出す。
「ビャクシンはただのイマジナリーフレンドじゃない? 家族から虐待を受けていた潤を救った殺人犯?」
謎だらけだ。
月見里家、鳴宮家、時槻三輪家は『時槻御三家』と呼ばれる時槻市では歴史ある名家だ。
ハルモニアでは森塚戒と山梨大地。
ディスコルディアでは鳴宮峻也と三輪碧海。
事務所関係者では社長の月見里十六夜とハルモニアマネージャーの鳴宮菜々花、ディスコルディアマネージャーの鳴宮煌也が『時槻御三家』の血縁者。
ハルモニアの阿妻瑞樹、ディスコルディアの鵜飼将剣、九條柊の親族は不明だが、幼少期の彼らの保護者は碧海の父親で三輪紫芍病院の院長、三輪英作である。
つまり、『時槻御三家』とは無関係で、尚且つ素性がハッキリしているのは芸能事務所ルナティックサーペントに所属する者の中ではディスコルディアの城守陽のみ。
「そして、ディスコルディアの九條柊は何故かハルモニアの事件後に自殺している」
九條柊。
阿妻瑞樹と親しかったと遼雅から聞いたような気がするが……それが動機なのか?
鈍い痛みが下肢に走る。
紫の刺青のような痣は時成のメールを読む度に広がっていく。
下腹部から下肢へ。
鈍い痛みと、甘い花の香りを伴って。
もう一度、時成からのメールに視線を走らせる。
時槻市には紫芍病という風土病があったそうだ。
三輪紫芍病院の“紫芍”は、その名残。
かつて紫芍病の治療をする為に『時槻御三家』のひとつ、時槻三輪家が病院を開業した。
紫芍病の詳しい症状は不明。
時槻三輪家、そして『時槻御三家』が意図的に隠している可能性も高い。
「紫芍病……俺は紫芍病なのか?」
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