二重人格

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二重人格

「もし、私が山梨大地ではなかったらどうする?」  ある日、山梨大地がこんなことを言った。 「お前は何処をどう見ても山梨大地だろ?」 「最初からだ。あの海浜公園でアンタと対峙したあの時から、私が山梨大地ではなかったら?」  難しいことを言い出す。  それでは俺は“山梨大地ではないナニカ”としか対面したことがないことになる。 「お前は山梨大地じゃないのか?」 「身体は大地のものだ」 「じゃあ人格が大地ではないとでも?」 「あぁ。今アンタと喋っているこの人格は、大地の人格ではない」  そう言うと、あの山梨大地が、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯いた。 「私を中二病だと笑うか?」  以前の俺なら……雨音と分かれて図書館に通い出した頃の俺でも、きっと大笑いしていただろう。  だが、今の俺は微笑みを浮かべながら首を横に振った。 「笑わねぇよ」  山梨大地は驚いたのか、目を丸くする。 「信じるのか? 我ながら中二病な発言を口走っていると思うぞ」 「あぁ……信じる。それで、山梨大地ではないお前は何者なんだ?」  山梨大地は二度三度口を開いては閉じた。  四度目、決意したように唇を引き結ぶと……。 「玲。人格は女だ」 「れい…………」  娘、麗奈を思い起こさせる名前。  そして…………。 「人格は女?」  コクリと頷く大地……いや、玲。  思い当たる事がなくもない。  図書館に向かう途中にあるファンシーショップ。  ショーウィンドウに飾られているウサギのぬいぐるみ。  玲は何度か、そのウサギのぬいぐるみを目で追っていた。  それは麗奈が欲しがるような本当に可愛らしいぬいぐるみで。  宵闇に溶け込む魔王のようなその男には似合わないと思っていた。  しかし、中身が女性であれば合点がいく。 「峻也、ちょっと良いか?」 「陽さん、どうかしました?」  黙っていればシャープな美形。  喋れば柔和な印象の三十代半ばの男。  それがディスコルディアのリーダー、鳴宮峻也の印象だ。  元々この男は山梨大地が所属するアイドルグループ、ハルモニアのマネージャーだった。  ディスコルディアとして本格的にデビューが決まると月見里社長と相談の上、マネージャー業務を妹と弟に任せた。  現在、峻也の妹の鳴宮菜々花がハルモニアのマネージャーを、弟の鳴宮煌也が我々ディスコルディアのマネージャーを担っている。  そういった事情もあって、この男はハルモニアにも詳しい。
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