紫の紋様

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紫の紋様

「あきら……陽……大丈夫か?」  目を覚ますと、黒の着流し姿の大地……玲が俺の下腹部を撫で擦っていた。  下腹部には鈍い痛みがある。 「何だ……これ……」  下腹部には紫色の痣があった。  いや、痣と呼んでいいのか?  まるで刺青のように彫られた紫色の蔦の紋様が下腹部に広がっていた。  俺は驚いて玲を見る。  玲も首を横に振った。  何故俺がこうなっているのか、玲にもわからないらしい。  そういえば……。 「玲!? お前、大丈夫なのか!?」 「何がだ?」 「何がって……お前、遠藤灯雅に…………」  その先の言葉が出て来ない。  まるで喉が言葉にするのを拒絶するかのように、ヒューヒューと空気だけが通り過ぎてゆく。  だが、玲は俺の言葉の先を察したようだった。 「あぁ、大丈夫だ。ただのかすり傷だ。問題ない」  玲の言葉に一気に力が抜けた。 「心配しただろうが……」 「…………すまない」  謝罪する玲の身体を抱き締めた。  もう失いたくない。  もう誰も失いたくない。  俺は玲を抱き締めながら、この身がどうなろうと必ず玲を守ると誓った。  あの日から、玲は俺の部屋に居る。  社長の許可は取ってあるらしい。  まぁ、俺も玲も同じマンションに住んでいるのだが。  このマンションを管理するのは鳴宮家……峻也の実家らしい。  ハルモニアとディスコルディアの面々の殆どはこのマンションに住んでいる。  例外は碧海くらいか?  アイツは実家に住んでいる。  ハルモニアの事件で、事務所は今ゴタゴタしている。  余波は同事務所のディスコルディアにも及び、平たく言えば開店休業状態だ。  まぁ、俺は正直助かっている。  下腹部の奇妙な紫の痣は消えない。  むしろ広がっているようにも見える。  鈍い痛みも消える気配がない。  身体も重い。  それに、命に別状はないかすり傷とはいえ、玲も怪我人だ。  休暇と思ってありがたく自室でのんびりと過ごしている。  ハルモニア事件から一週間が経った。  2019年6月21日。  また社長から電話があった。 「自殺!? 柊が!?」  ディスコルディアのベーシスト、九條柊が自殺した……らしい。  スマートフォンの向こうから社長の声がする。  俺はスマートフォンを取り落として、下腹部を押さえて蹲った。  痛い。  痛い。  下腹部が痛い。  痛みと同時に、噎せ返るような甘い花の香りを感じた。  この香りは何だ?  柔軟剤か?  いや、さっきまでこんな香りは漂っていなかった筈。  痛い。  痛い。  俺はまた意識を失っていた。  気づいたら、玲が俺の下腹部を撫でていた。  頭の何処かで、病院に行った方が良いと叫ぶ俺がいる。  けれど、病院に行ってしまったら、玲と離れ離れになってしまう気がして……。  俺はその声を無視してしまった。
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