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悪夢
食料が切れた。
外の様子を窺う。
マスコミはいないようだ。
体調は悪いが、玲と一緒に買い物に出掛けた。
食料と、煙草をカートン買いした。
最近マンションにマスコミが張っているから出掛け辛いのだ。
九條柊が自殺した。
自分のバンドのメンバーが、仕事仲間が自殺した。
それなのに、自分のことで精一杯の己が歯痒かった。
もっと嘆いてやらなければ、柊も救われないだろう。
暗い夜道を、玲と歩く。
相変わらず玲は黒い着流しに黒いブーツという出で立ちで闇に溶け込みそうだった。
そのまま闇に消えてしまいそうで、俺は玲の手を握り締める。
その時だった。
「森塚、玲……」
呟きが聞こえた。
聞き覚えのある声。
聞き覚えのある呟き。
俺は振り返る。
「遠藤…………」
刃傷沙汰を起こして自殺した筈の遠藤灯雅がそこにいた。
相変わらず美しい顔だった。
しかし、その美しい顔には俺の下腹部に刻まれた紋様と同じ紋様が刻まれていた。
いや……少し違う。
俺の下腹部の紋様は蔦のような紋様なのに対し、遠藤灯雅に刻まれた紋様には蔦だけではなく、花の蕾のような紋様も刻まれていた。
遠藤灯雅が歩み寄る。
俺は玲の腕を引いて後退った。
「ソレは……森塚玲か? 何故森塚玲が生きている?」
森塚?
名字に疑問を覚えたが、玲は当然生きている。
「当たり前だ!! 玲は生きてるに決まっているだろうが!!」
俺は遠藤灯雅に怒鳴った。
その時だった。
ふわり。
俺と遠藤灯雅の間に、真っ白な髪と赤い瞳のウサギのような男のが現れた。
男はニヤリと笑う。
遠藤灯雅が助けを求めるように、俺に手を伸ばした。
何度か体調不良で蹲っていた遠藤灯雅を思い出し、俺は後退る足を止める。
遠藤灯雅が手を伸ばす。
そして……。
遠藤灯雅の身体が潰れた。
見えない力に圧迫されるように。
作り物のように美しい遠藤灯雅の顔が、身体が、醜い肉塊へと変わり果てた。
ウサギのような男は笑う。
飛び散った遠藤灯雅の血が、肉片が、煙を上げる。
遠藤灯雅だった肉塊が、炎に包まれる。
どのくらい経っただろうか?
いつの間にか、ウサギのような男は消えていた。
遠藤灯雅だった肉塊も、燃え尽きていた。
骨も、灰すら残さず燃え尽きていた。
そこには、既に闇しかなかった。
俺は食料が入った袋と玲の手を握って駆け出す。
そしてそのまま逃げるように帰宅した。
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