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「けれどそれとこれとは話が別だ!」
再び、バン!と叩かれる、壁。
「君のせいで遅刻しそうだったんだぞ!
した約束は必ず守れ!」
怒り狂っている課長には申し訳ないけれど、彼の端正な顔に銀縁眼鏡はまるで彼のために誂えたんじゃないか、ってくらいよく似合っていた。
その顔が至近距離にあるのだ。
このドキドキはいまの危機的状況にあってのもので、それじゃないとわかっている。
そうじゃないと私はただのドMだ。
それでも。
知らず知らず手が、課長のネクタイを掴んで引き寄せる。
なにが起こっているのか把握できずに間抜けな顔でいる彼の唇に、自分の唇を――重ねた。
「なっ……」
ネクタイから手が離れ、私から離れた課長は現状理解が追いつかずに視線を泳がせていた。
「ガタガタうるさいんですよ。
そんなに言うなら毎日直接、起こして差し上げましょうか?」
「なにを、言って」
まだわけがわかっていない課長にイラついて、もう一度、ネクタイを掴んで引き寄せる。
「課長が好きだって言ってるんですよ」
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