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三人称視点
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ある民放テレビではとある外国人からのニホンオオカミを見たという垂れ込みを受けてその地に取材班を送り込んだ。青い山々の麓。少し田舎な雰囲気を漂わせながらも都会の風も入る静かな住宅街の山沿いの公園。そこで外国人である男性はニホンオオカミとそれと遊ぶまだ小学校低学年であろう男児、それを見守るシベリアンハスキーと中高生だと思われる男子生徒を見たという。咄嗟に彼は質問をしたそうだが、慌てていたため英語が出てしまい、それを理解できなかったであろう彼らはこれは犬だと叫んで逃げてしまったそうだ。しかし、それは犬だとどう見ても信じられなかったそうだ。鋭い牙、野生味を帯びた体は犬とは到底考えられない圧を感じたという。これは、すごい発見なのではと思った彼はテレビ社にタレコミをし、すぐに取材班が結成された。
取材班のリーダーである男は初めは外国人のタレコミを疑ったという。いかにも怪しげな様子の外国人の嘘だと思ったのだ。
同じくリポーターとして連れてこられた入社して半年も経っていない女もそれを疑った。リポーターとして初仕事、完遂したい、そんな気持ちで嘘でないことを願った。
それは本当だった。外国人が目撃した公園で張り込んで2時間も経たないうちに、外国人が叫んだ。「HeHe!」取材班は振り向いた。そこには小さな青い半袖の男の子と、そして犬とは到底思えない青白い動物がいた。
取材班はカメラを回し、男の子を追いかけた。しかし何かを感じたのであろう男の子と動物は逃げ出した。小さな体は思った以上に素早く、ヒールを履いた女、カメラを抱えた男らはなかなか追いつけない。男の子はある家に入って行った。息を切らした取材班はその家のインターホンを鳴らし、ドアが開くのを待つ。訝しげな母親らしき女性が出てくる。彼女が取材班に何があったのかを聞く。彼らはただ「犬、オオカミ」と叫ぶだけだ。ただの会社員と専業主婦、そしてその子どもの3人家族にはテレビカメラを抱えた男性らとは縁もゆかりもない。ここで思い当たるのは息子が拾ってきた犬。犬とは関わりがなかった夫婦はそれを犬と思い込んでいた。何かあったかと息子に聞こうとするが、彼女の耳に飛び込んできたのは、立て付けが悪くなった裏口がギィと閉まる音だ。逃げたなと感じる母親は叫ぶ。「玄、あなたは何をしたの!?」しかし、時すでに遅し、男の子は逃げた後だった。
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