1・菜々美

3/5
前へ
/14ページ
次へ
 フウは床に片膝をつき、菜々美に指輪を差し出した。そのまなざしは刺すように真剣だ。指輪は金の輪に大粒の白い真珠がひとつ輝いている。  この指輪にも、目の前のフウにもどこか覚えがあることが、菜々美には不思議だった。  フウが真面目な口調で話しかける。 「サヤン、どうか受け取って欲しい。この指輪をはめてもらえれば全てが分かる」 「何を言っているの。そんな指輪、受け取れない」  そのとき菜々美のスマホが鳴った。彼女が取ると新郎の司からだ。菜々美は安堵した。 「司さん、遅いわ。いま不思議な人がここに来て──」 「菜々美、すまないが挙式は出来ない」  スマホから聞こえる司の声は沈んでいた。 「どういうこと。一体何があったの?」 「本当にすまない。今、そちらに向かっているところだ。詳しくは週刊誌を見てもらえれば分かるから」  そこで司からの連絡は途切れた。 「サヤン、もう行こう」  フウが立ち上がり、菜々美をせかす。 「ちょっと待って、週刊誌を買うよりネットの方が早いわ」  すぐにスマホを使って菜々美はネットを調べた。司のことは、すでに芸能界ニュースに取り上げられていた。 『スクープ! 人気アイドルゆりりんと極秘デートの相手は、モデルNANAMIのフィアンセだった!』
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加