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ふん、涙なんて見せるものか。そんな情けない姿をさらして、マスコミの餌食になんかなるものか。
鏡を前に心に誓う。哀しくったって、百合の花のように立派に咲いて、凛としてやる。いつだってそうしてきた。
辛さを押し隠し、それでも肩が小さく震えている菜々美に、フウが心配げに声をかけた。
「サヤン、泣いているのか」
菜々美は強くスマホを握りしめた。その手はまだ震えている。
「泣かないわ。私は絶対に泣いたりしない。こんなことで涙なんて流さない」
気丈に返事をする菜々美に、フウはもう一度指輪を差し出した。その眼差しは先ほどより優しい。不思議な懐かしさを菜々美は感じた。
「サヤン、どうかこの指輪を受け取って欲しい。もうじき来る母船を共に待とう」
フウが菜々美に真珠の指輪を渡す。奇妙な指輪だ。真珠に見えるが、どこか輝きが違うような……? 菜々美が真珠に触れたその途端、身体が囚われたように動けなくなった。
私はどうしてこの人のことを、懐かしいと思うのかしら。どうして私は、彼からの指輪を受け取っているの?
菜々美は自分の左手の薬指に、真珠の指輪をはめた。サイズはぴったりだった。なぜ。
「思い出したわ……」
稲妻に打たれるような衝撃に震えながら、菜々美はつぶやいていた。
「あなたはフウ。そして私はサヤンだわ……。私たちは、遠い宇宙から来た。地球の調査に……。でも星間戦争によって母船は去ってしまった。取り残された私たちは地球で暮らさざるをえなかった……」
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