2・チェリアーナ姫

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「チェリアーナ姫」  カミッロは顔を上げた。チェリアーナは、カミッロを見つめて微笑んでいる。 「ここにあなたが来る時は、わたくしの大切な時間なの」  少し憂いを帯びたチェリアーナは、ほっそりした指先で、懐から真珠の指輪を取り出した。 「わたくしの本当の名はサヤン。あなたはフウよ。この指輪を受け取って欲しいの。わたくしが遠くの国へ嫁ぐ前に」  窓の外からは春の風が吹きこみ、チェリアーナの黒髪をなびかせる。  「この指輪は普通の指輪ではないの。私たちの得た地球と人類のデータが封じられているわ。はめると今までの記憶を思い出す。問題はこれがひとつしかなく、互いに相手を見つけて、渡し合わないといけないこと。人間の肉体は100年も持たない。精神生命体となった私たちは、何度も地球人の肉体に宿りながら、生きてゆかねばならない。星間戦争が終わり、母船が迎えに来るまで」 「姫、その指輪は一体? 私はただの雇われた画家で」   カミッロは戸惑っていた。少し頬を染め、姫のまっすぐな眼差しを受け止めきれないでいる。  チェリアーナ姫の瞳には涙が光っていた。 「カミッロ……。わたくしを連れて逃げてと言ったら、連れて行ってくれるかしら」  チェリアーナ姫は、戸惑うカミッロの胸に、小鳥のように飛び込んだ。切なげにつぶやく。 「ここではないどこか遠くに、二人で行きたい……」  その甘い吐息は、目の前の男を芯までしびれさすことが出来そうだ。窓の外では城下の街並みが、遠い幻のように輝いていた。
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