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* * *
そこで菜々美の意識は、はっと現実に戻った。思い出したのは、深い夢のような過去の記憶だった。
「今のは私とフウの過去の記憶なの? 何百年も昔のことだったわ」
信じられない思いで、菜々美が左手の指輪を見やる。良く見れば、やはり真珠に見せかけた機械のように見える。
「そう。指輪の中のデータが、あなたに過去を見せた」
フウがうなずき、窓の外を指さした。
「もう母船は来ている」
「何ですって」
菜々美は驚いて、慌てて窓を開けて外を見た。外は晴天だ。窓の外では道行く人が騒いでいるのが聞こえた。
「あれは何だ!」
「宇宙船だ! 大きい!」
人々はみな空を見上げて口々に騒いだり、撮影をしているのか、スマホを上空に向けている。
菜々美が窓から上空を見上げると、東京ドームほどの大きさの宇宙船が、街の上に浮かんでいた。表面はなめらかな金色で、全体が円錐形をしている。
「これが母船……」
宇宙船を見つめ、あぜんとした菜々美に、フウが部屋を出るように促した。
「迎えの船が来たようだ。急いで屋上に向かおう」
意外に強い力で、フウが菜々美の手を引く。菜々美はウエディングドレスにヴェールをかぶったまま、新郎新婦の控室を出て、廊下に向かった。
屋上には挙式のためのチャペルがある。まだ招待客は入れていない。屋上に出れば、もっと全てが分かるだろう。菜々美はフウと共に廊下を急いで走った。
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