1・菜々美

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1・菜々美

 新郎新婦の控室で、芹沢菜々美(せりざわななみ)は自分の着ている純白のウェディングドレスを、目の前の鏡で確認していた。被っている白いヴェールのレースが、艶やかな黒髪を縁取っている。生花の百合の花のブーケも準備してある。どこにも異常はない。  しかし挙式の時間もしだいに近づいてくるのに、何かがしっくりこなかった。 「うーん、これから挙式なのに。ドレスもメイクも完璧なのに」  困って菜々美は椅子に座り込んだ。六月の花嫁は幸せになれる、そんな言い伝えからこの挙式も六月にした。だのに、嫌な予感がする。  彼女はNANAMIという愛称でファッションモデルの仕事をしていた。選び抜いたマーメイドラインのウェデングドレスは、菜々美のスタイルを花のように華やかに魅せている。 「だめだめ、弱気になっちゃ。一番綺麗な姿を見せなくちゃ」  鏡を見つめて気合を入れる。強い眼差しのアーモンドのような特徴的な目の形が、アイメイクによってより際立つ。  オリエンタル・ビューティ、東洋の美と言われた自分の眼差しが、今は少しだけ不安だった。きつい目とも、可愛げがない目つきなどとも言う人もいたからだ。 「どうして(つかさ)さんが来ないのかしら。遅すぎるわ。もう来てもいいはずよね」  不安げに菜々美はスマホを見たが、婚約者の司から連絡はない。同じ年の彼は上場企業の社長をしている。お互いにいつも忙しい身とはいえ、今日は遅刻が許される日ではない。
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