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「これで少しは隠れるかな」
「は、はい」
なんだか、とっても大切にされているみたいで……心臓がトクリと鳴る。男性らしい清涼感のある香りを漂わせた社長は、「では、いくぞ」と私をエスコートするために腕を折り曲げた。
「ほら」
戸惑う私の手をとると、社長は自分の腕に絡めるようにとひっぱった。
「今夜はオレから離れないこと」
「は、はい……」
こんなにもゴージャスな彼の隣に立つのは心苦しいけれど、下を向いていてはいけない。顔を持ち上げると、私は笑顔をつくって彼の腕に身体を近づけた。
「何かあったら、社長が守ってくださいね」
「ああ」
本当に何かあれば後ろに控えるロベルトが動くだろうけど。けれど、一誠社長もそれなりに身体を鍛えている。
ホテルのロータリーに横づけされたリムジンに乗ると、夜の眩い光の中を滑るように走り出していく。
広い車内なのに、隣に座った社長はなぜか私の手をとると、指と指を絡めるように繋いできた。これも『オレの女』の演技の一つだろうか。指摘すれば離れてしまいそうで、私は何も言えなくなる。
すると彼は、指と指の間をなぞりながら隣に座る私を見下ろした。
「ところで、この服は誰が決めたんだ」
「あの……私、ですけど」
ラスベガスらしく、派手でセクシーな方が良いかと思ったのだけど。違ったのかな……
「身体の線が丸見えじゃないか」
「こうでもしないと、社長が他の女性を視ちゃうんじゃないかと思って」
薄暗い車内の中だから、ちょっとだけ口をすぼめて言ってみる。すると社長は「そうか」と言った途端、車内にあるボタンを押した。
運転手さんと後部座席にある仕切りが、いきなり暗くなりスモークがかかる。
「えっ」
車内は薄暗くなり、誰からも中が見えないようになる。すると社長は背中を撫で始め、私を座席にうつ伏せにさせた。
「では、お望み通り身体の線を見せて貰おうか」
「あっ、きゃあっ!」
外から視線を隠された車内で、社長の手が不埒に動く。ぴったりとした服の上をなぞるように、彼が触れていく。
「あっ、あんっ」
心が揺さぶられるのと同時に、うなじに彼の唇が触れた。——熱い。焦る想いと裏腹に、彼の厚い唇が徐々に背中に落とされた。
すると――
「いたっ」
なんと私のうなじに彼が噛みついた。ピリッとした痛みが走る。
「な、なんで……っ」
噛まれたところに手を宛て、身体の向きを変えて彼を見上げる。すると――
「噛み痕がついているから、しっかり隠せ」
ほの暗い顔をした彼が、私を見下ろしている。「なっ――」驚く私に、ストールの布が被せられた。同時に、リムジンが停まり運転手から『到着しました』と伝えられる。
余程私が肌を露わにしていたのが許せないのか、噛み痕をつけるなんて信じられない。キッと彼を睨むと、不機嫌な顔をしている。
「君が脱いでいいのは、オレの前だけだ」
「しゃ、社長の前でも脱ぎませんっ!」
と、叫んだ私は絶対に悪くないと思う。
◆
大きな噴水が光に照らされて、水が弾け飛んでいる。まるでギリシャ神殿のように大きな円柱の立つエントランスを抜けると、高い天井のホールの奥に扉が開かれていた。セキュリティチェックを受けると、中にあるカジノに案内される。
『オレにはシャンパンを。彼女にはスパークリングウォーターで』
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