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昔は切れ者だった会長に気に入られて三年、彼の下で働き仕事を叩きこまれる。そして会長の引退と共に現社長の秘書課に異動となった。一誠社長に生意気な口をききながらも、今のところくびにならずに済んでいる。……けど。
ふと顔を上げて社長を見ると、まだ何か言いたそうに口をすぼめていた。——もうっ、反則なくらい可愛い!
そう、彼は超絶イケメンでありながらも、ふとした仕草が激烈に可愛すぎるのだ。それも、私の前でしか見せない。
——もうっ! 顔がいい!
社長は私にとってドストライクな顔をしている。男らしい眉に切れ長の瞳。すーっと通った鼻梁に、薄い唇。素晴らしく顔がいい。いや、他にもいいところはあるけれど、とにかく顔がいいのでいつまでも眺めていたい。
——はぁ、本当に王子様みたい……
幼い頃にイギリスで会った王子様は、金髪に青い目をして全てが輝いていた。私の中の憧れの王子様は、イギリス王室の本物ではない。物語の中にでてくるような、いかにもな感じの王子様だ。……社長はちょっと似ているのよね。はぁ、好き。
でも、こんな貧乏令嬢の私にしてみれば、社長は雲の上に住む王子様のようなもの。それに秘書だから、気持ちなるべく表さないように気をつけている。
だからどうしても、つっけんどんな態度になってしまうけれど……本当は好きなのに、気持ちを押し込めている。
「社長。で、今度はなんで石油王なんですか?」
聞いてほしいと顔が言っているので仕方なく伺ってみる。
「ほら、あれだ。石油の権利を持っていれば何かと便利だろう」
「それはもちろんですが、油田オーナーならともかく、石油王となると国籍からして無理ですよ」
詳しくは知らないけれど、石油王となると中東のアラブ諸国を思い浮かべてしまう。さすがにシークになるのは、日本人では無理だろう。でも、これまでも彼は出来ないと言われることを実現してきた男だ。——嫌な予感がする。
「まさか、日本人を辞めるとか」
「それは最後の手段だ。まずは金で解決できることから進めよう」
金持ちであることを自覚している放漫なプラチナ御曹司様は、これだからっ!
そんな私に構うことなく、彼は社長専用のゴールドのスマートフォンを取り出した。私は思わず立ち上がり、キッと睨み上げる。
「社長! 私は反対ですっ!」
「なぜだ」
ここで単に仕事が増えるのが嫌だからと言えればいいのだけれど。私はそこまで鉄の心臓を持っていない。
「しゃっ……社長がこれ以上忙しくなると、っ、寂しくなるからですっ」
血が逆流して顔にのぼっている。きっと首元も真っ赤になっているだろう。理論も何も通じないこの人に、一番効果があるのは私の迸る恋情だ。結局、いつもこの手を使って止めることになる。
……でも、それを伝えるのはとてつもなく恥ずかしい。
一瞬キョトンと目を丸めた彼は、奥に潜む私の感情を読み取ったのかくすりと笑う。——破壊的に顔がいい人の笑顔は凶器だ。
ドクン、ドクンと心臓が鳴っている。単に無謀な計画を止めたいだけなのに、これでは告白しているようなもの。
カツカツと靴音を響かせながら社長が近寄って来る。蕩けるような目をした彼は、私の傍に立つと美しい手を伸ばして顎を持ち上げた。
「参ったな……僕の秘書が可愛らしく見える」
「かっ、かわいいって」
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