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――命を半分……。
「しかし、喉が焼かれ、声が出なくなったクムイを楽器として、おれはおれと契約した。話したことはあるな。ただ、一回だけ、おれはこの世の楽器と契約を結ぶことができると。それだ。だから、クムイには命の期限が半分になるという契約が消され、おれの契約に書き直された」
エシュはクムイを見ると、「すまなかった」と言う。
「おれは音楽だ。音楽がなくならないかぎり、おれは死なない。おれの楽器である、クムイも、もう人間の寿命を迎えられない。おれが死なないかぎりは生きている。クムイ、お前は瞳の色でわかるように、人間ではないんだ。ずっと音楽とともに生きることとなる」
一時の感情でクムイを永遠に近い命にしてしまったことを、エシュは申し訳なく思っているようだ。
クムイもエシュを見る。そして「エシュ、目を閉じて」と言った。
エシュが目を閉じると、クムイはすっとその唇に口付けを落とす。思いがけない答えに目を開けるエシュの肩に寄りかかった。
「いいのよ、そんなこと」
ふふっと笑って、クムイはエシュに擦り寄った。懐かしい曲のような体温が心地よい。
「わたしたち、歌い人は楽器なんだから、音楽とともにいるのは当たり前じゃない」
エシュも柔らかく笑うと、クムイの肩を抱く。
「なーんかいちゃついてる気配がするんですけどー」
後ろでノヴァの声がした。クムイとエシュはそれに笑ってしまう。
クムイはエシュの手に自分の手を重ねた。これからはじまる、人間からしたらあまりにも長い時間に不安はない。エシュとなら大丈夫だ。
そんな確信が胸にあるから。
・
ある日、眠っていた山猫は茂みの向こうから聞いたことのある音がして目を覚ました。気になり茂みをくぐり顔を出してみると、こんな夜中なのに村人が集まっていた。その中には優し気な顔つきをした精霊が一人。
そして輪の中心には可愛らしい吟遊詩人が綺麗な光の粒と歌声を響かせていた。
十字路の精霊と楽器が、寄り添い。
この旅は、どこまでもどこまでも続いていくらしい。
[完]
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