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「これでいいのか?」
冷たい声がした。はっとクムイは現実に戻り、青年を見る。
間近で見つめあう形となり、クムイはぶるりと震えた。綺麗だ。瞳には星が詰まったような輝きがある。だが人間味のない、硝子のような色をしていた。すっと思わず身を引いてしまう。恐れを抱くほどに、美しい。
「あ、あなたが音楽の精霊?」
クムイが震える声で聞くと、青年は一瞬不思議そうな顔をしてくつくつと喉で笑った。
「音楽の精霊……そう呼ぶものもいるな」
「じゃあ、誰?」
「おれはお前らが音楽と呼ぶ、そのものだ。今の曲でもあり、他の曲でもある。すべての音楽そのものだ」
妖しく綺麗な声色だった。音そのものに揺らぎがあるような感じがする。心地よく神経に絡みつき離れない。
だが何故かとても鋭い。
「そして、今、お前に呼び出された。願いはこれか」
そうして完璧に直った六弦琴をクムイに渡す。クムイは立ち上がって六弦琴を持つと、信じられない気持ちで触った。ひび割れた形跡もなく、壊れる前そのままの姿だ。驚きが喜びに変わろうとする瞬間、それを遮るように「これでいいのか?」と青年は繰り返した。
「これでいいって、どういうこと?」
クムイがそう聞くと、青年はまた面白そうに喉で笑った。
「おれは呼び出されたものの願いを叶えることができる。なんでも弾けるようにと願えばその通りに、お前はこれが直ることを望んだ、その通りになっただろう。だがひとつ、代償がある。願いを叶えるには、お前の命を半分頂く」
そう言って青年はクムイの胸――心臓をまっすぐ指さした。
「命を半分? そんな……チャックノリスさまはそんなこと言ってなかった」
ぞっとする思いで、クムイは口にした。青年は首を傾げ「誰だか知らないが、そいつは知らなかったのだろうな」と言う。
「おれが願いを叶えるには、呼び出したものの命を必要とする。これは絶対だ」
「命を半分……」
クムイは六弦琴を抱きかかえて、考えた。星降祭に出場が決まったのは今年が初めてだ。クムイには後ろ盾がない。次の星降祭に選ばれるとはかぎらない。クムイには出場し、優勝したいという願いがあった。何にも代えられない願いだ。そして、それにはこの六弦琴が必要だった。この六弦琴を持って優勝さえすれば……。
「今なら、願いをなかったことにしてもいい。夢、幻と思い、おれのことなど忘れればいい」
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