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なるほどなとクムイは感心した。どの歌にも宿っているというのは確からしい。
「そうよ。その歌の町」
宿屋につくと、幌馬車を預け、クムイとエシュは大通りに出た。エシュは珍しそうにきょろきょろとしている。古い歌を知っているというのに、音楽以外のことはてんでダメなようだ。典型的な田舎者の態度にクムイは苦笑してしまう。
「歌では、どこでもあるような小さなものだと思っていたが……祭りか?」
「お祭りなんかじゃないわ。ここはいつもそうなの。交通の便がいいから、行商人もよく通るし、なんでも揃ってるの。わたし、ここ好きよ。いつでも賑やかなんですもの。ねえ、こっちに来て」
人の行き来が盛んな道では、エシュとすぐはぐれそうになってしまう。クムイはエシュの服の袖をつまむと、露店の間をぐいぐいと進んだ。たたらを踏みそうになりながらもエシュはついてくる。誰かが精霊だと声をあげた。注目が集まる前にとクムイは歩を進める。
やってきたのは仕立て屋の前だった。
「出会った記念よ。好きなように外套を作ってもらって。わたしからエシュに出会った記念の贈り物」
そうクムイは両手を広げる。しかしエシュは迷うように仕立て屋を見上げるだけだった。
「どうしたの?」
「いいのか?」
そう言いながら心配そうにクムイへ視線を向けた。クムイが身に着けているものといえば、使い古したスカートにコルセットと上着だけだ。唯一、仕立てのよいものといったら髪の毛を彩る刺繍の花の髪飾りだが、これもまた古びている。花の髪飾りを除けば、どこにでもいる貧乏な村娘だ。
「大丈夫。これはただの普段着だもの。衣装なんて高いもの、わたしのようなものがつねに着てたら一人で旅できなくなっちゃう。わたし、これでも稼いでるのよ、どんなものでもどんとこいよ」
そう言って胸を張ってみせるが、エシュは疑わしそうにクムイを見るだけだ。
「おれは何度か吟遊詩人のそばにいた。時代が変われど、一人でいるものがそうそう稼げるものではなかった。いきなり、吟遊詩人の立場が変わるとは思えない」
その言葉を聞いて、さらに胸を張ってみせる。
「わたしはこれでも星降祭って国一番の歌姫を決めるお祭りに呼ばれているの。六弦の花姫とはわたしのことよ。そんじょそこらの吟遊詩人とは違うんだから」
気づけば周囲には精霊を一目見ようと人々が集まっていた。その中で歓声があがる。大勢の人々にも臆することなくクムイは堂々と自分の手の平をエシュに見せつけた。練習の証である指の腹は柔らかく弾力があり、それでいて硬い。自慢の指だ。エシュはなるほどと感心したように頷いたが、疑わしい目をやめなかった。
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