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「まあ、入りましょう。ここじゃ目立って仕方ないわ」  入口を開くと、からんと鐘の鳴る音がした。帳場についていた初老の女性がこちらを見て、ぱっと目を見開く。視線はエシュを向いていた。先ほどまで目につくと困っていたが、なんだかクムイは笑ってしまう。 「おばさま、ちょっといいかしら。エシュに、この人にぴったりな外套を作ってほしいの。素敵なやつよ」 「まあ、まあまあまあ。精霊さまにお目にかかれるとは」  エシュの背中を押して女性の前に立たせると、エシュはやはり怪しげにこちらを振り返る。クムイはそれを追い払うように、エシュを軽く叩いた。 「この人の注文、なんでも聞いていいわ。あまり派手なのは困るけど。よろしくお願いしていいかしら」  女性は拝むように両手を組んで、ぺこぺこと頭を下げている。もしかしたら精霊を見るのは初めてなのかもしれない。 「まあ、まあまあまあ、精霊さまの外套を手にかけられるなんて」  そうエシュを見上げてため息をつく。しかし、あまり見ては失礼なのかと思ったのか、恐れ多いのか、すっとクムイに視線を移した。 「ありがとうございます。ありがとうございます。……あら? もしかしてあなたは六弦の花姫さまでしょうか」 「え? わたしを知っているの?」 「ええ、使い込まれた花の髪飾り、噂に聞いたことがありますわ。まあまあ。精霊さまをお呼びになったのですね。花姫さまに精霊さま、一度にこうして店に足を運んでいただくなんて、なんて素敵な日でしょうか」  そう言って腰を低くする女性にクムイは顔だけで笑った。正体が知られると、だいたい話が長くなる。こうして話を進めていると、時間ばかり無駄にしそうだ。 「それで急ぎになってしまうんだけど、エシュの外套を頼めないかしら。お金ならいくらでも払うわ」 「はい、ちょうど手が空いていたのですよ」  そう言って、女性はエシュに目を向ける。 「そこへ精霊さまがお越しになるなんて、この店もついておりますわ」 「じゃあ、よろしくお願いいたします。さあ、エシュ、寸法測ってもらって。生地は好きなのを選んでいいから」  戸惑ったようなエシュはまだ目つきを変えない。クムイはふっと息を吐くと、エシュの胸に指を突き立てた。
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