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「わたしをちょっとは信頼して。おばさまも知っているじゃないの、わたしを」 「しかし……ただの布でもおれはかまわない」 「それじゃ寂しいでしょう? いいのよ。一生の付き合いよ」  そうしていると、女性が「あのぅ」と顔を出してきた。言いにくいようにクムイの花の髪飾りを見る。 「花姫さま、よろしいでしょうか」 「何かしら?」 「花姫さまの花の髪飾り、よく使い込まれていますし、手入れもされているとお見受けします。しかし、星降祭にお出になるのでしょう? 新しく作り直されては。同じデザインでより良い生地を使いますが……」  クムイは花の飾りを触って、困った笑みを浮かべる。新しく作り直さないか。よく言われることだ。使い込まれているというが、つまりは古臭いのだろう。 「わたしはこれでいいの。これじゃなくちゃダメなのよ。それより、生地を見せてもらえない?」 「余計な提案でしたね。失礼しました」  そう頭を下げて、女性は奥へ下がっていく。慌ただしい声が聞こえた。きっと最高の生地をエシュのために選んでいるに違いない。そういえば、精霊は幸運を呼び込むともいうものねと、クムイはくすくす笑ってしまう。  しかしエシュは笑うクムイをじっと睨んでいた。 「どうしたの?」 「おれも、お前の花の髪飾りは新しくした方がいいと思う。しかし元がいいものを使っているな。もしや、それ以上と作り直されても困るのではないか?」  まだクムイの財布事情を気にしているようだ。クムイはため息をつくとエシュに身を寄せる。 「安心して、これはこだわりよ。それに稼いでいるのは、歌だけじゃないの。貴族には、わたしの使っていたものを売ったり……」 「物販か」  密やかに言うとエシュはとたんに不機嫌になった。蔑むように目を眇める。実に不快そうな顔つきに、クムイは目の前にいるのは音楽の精霊だったと思い出し、教えるべきではなかったなと思い至る。 「なるほど、それは大層なご身分だな。釣り合うようにおれも外套をどうするか考えなくてはならないようだ」  クムイは何も歌だけで生活しているわけではない。自分の衣装や楽器など使用していたものを売る。それが主な収入源になっている。後援者のいない旅から旅へ生きる芸人にとって大切な収入だが、それを快く思わないものもいる。つまりは、音楽一本で稼がないのかと。
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