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「ええ……ちょっと事情があって……」  大きな声でマリーが話すものだから、クムイはきょろきょろと周りを見回す。あまり目立ったことはしたくはないのだが、マリーはまったく気にとめない。 「精霊まで呼び出したら、旅が大変でしょう? ねえ、あなたをどれだけ心配したと思っているの。星降祭の街エンプラットまで一緒に行かないかしら? 護衛もつけているの。安全に開催地まで行けるわ」  クムイはマリーから体を離し、頭を下げる。マリーはクムイが舞台でなければ着ないような生地に、豪華に金糸を使った服装をしている。 「ありがとう、気持ちは嬉しいわ。でもシャラントット伯爵の令嬢が、わたしみたいなただの旅芸人と話したり、旅をともにするのはダメよ。お父さまやお母さまの名に傷をつけるわ」 「楽団では一緒だったじゃない」 「そうだけど、今は一人で歌っているじゃない。今はあなたは詠唱の花姫であって、シャラントット伯爵の令嬢よ。楽団にいた時とは違うわ。マリー、あなたはいいかもしれないけど、お家のことを考えなくちゃダメよ」  そう諭すように教えると「でもぉ」と言いながらも引き下がる。マリーはクムイを姉のように思っているようで、たいていのことは教えてあげれば素直に聞いてくれる。ふぅと息をつき、クムイはわざとらしく汁を垂らして果物を目の前で口にする。付き人が嫌な目をしてこちらを見てきたが、クムイは気にしない風に装う。 「こんなあたいのことなんか気にしちゃいかんぜ」  わかりやすく悪ぶってみせると、マリーは笑った。 「もう、クムイったら、わざとそうやってるのね。クムイの腕ならば貴族の養子だってなれたでしょうに」 「あたいみたいな女ァ養子にするお貴族さまもいないもんさ。あたいはあんたとは違う旅から旅へのただの芸人だもの」 「クムイはこの国一番の琴弾きの腕を持っているのよ。もしかしたら宮廷音楽家にだってなれるかもしれないんだから」  きゃははと声をあげて笑ってみせると、マリーの付き人が「お嬢さま、そこまで」ととめに入る。マリーは適当に手を振ると、「あ、そういえばね」と話を続けた。 「この近くの楽器商人の屋敷のあるところに、面白い楽団がいるらしいの。あなたはきっと気にいるわ。星降祭まで少し時間もあるし、寄り道してみたらどうかしら?」  そうしてると再度マリーの付き人の制止が入る。むくれた顔をしたマリーは付き人に引きずられるように歩きながら「また会いましょう」と声をあげた。
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