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「外にあるのは消音植物。音響植物はなんでも響かせちゃうから、いつも持ってたらうるさいでしょう。音も歪むようになる。だから作られた、音を消す植物なのよ。あなたが音楽だっていうのならば、あんまり近づいちゃダメかもしれない」  そう言ってクムイは説明をする。  音響植物はどんな音でも響かせる。だが訓練して同じ音だけを響かせていたら、同じ音のみを響かせるようになる。だけども、他の音を聞かせていれば、歪んで響かせるようになる。消音植物は必須だ。だから幌馬車の中にエシュを入れられなかったのだ。 「消音植物の蜜は飲めば喉を焼き声を消す毒なのよ。そんな危険なもの音楽のあなたに触れさせるわけにはいかなかったってわけ」  荷台に入っていたのはこれだったのかと、エシュは納得する。 「なるほどな、これがあるのなら、入れたくはないだろう」  クムイは頷くと六弦琴を手にした。 「歌は好き? 音楽のあなたに聞くのはおかしいかもしれないけど」  クムイの顔に光の粒がぶつかり弾ける。精霊なんて身分の自分がいうのはおかしいかもしれないが、クムイが植物と戯れるおとぎ話の妖精か何かのように見えた。  何か身近なものを感じさせる、不意に心を許してしまう雰囲気があった。 「さてね、自分自身なものなのでな」 「歌ってあげる。わかっているとは思うけど、わたし、吟遊詩人なのよ。何がいいかしら。そうだ、ここにぴったりのグラジニオスの歌にしましょう!」  そう言いながら、クムイは鉢を動かしてエシュの場所を作る。椅子まで運ばれたので、エシュはおとなしく座った。そういえば、クムイの歌を聞いたのは呼び出された時だけだった。迷子になって泣いてしまったような、子供のような響き。でもと、エシュは思う。  ――でもどこまでも甘く、道標のように自分を呼び寄せた。  クムイも椅子に座ると、ぽろんと六弦琴を奏で始めた。一音一音弾きながらも、撫でていくように優しく弦を震わせる。指の動きに迷いはない。キュッと弦がしなり音が伸びやかに広がっていく。鮮やかな花が色とりどりの光の粒を生み出す。ふんわりとしたそれはエシュの頬にぶつかると、ぽんと音を響かせた。それは床で壁でクムイの体で起こっている。まるで空気が共鳴しているかのように。  ぶるりとして、エシュは体を抱き締めた。人の身をとった時にしか味わえない、体全身に伝わる生の音楽がここにある。  つい、人を羨んでしまうような……。  音楽にただ漂うだけではないものがここにあった。確かに、クムイは自分を呼びだした琴弾きなのだ。
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