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「みんなが聴かなきゃ生きていけない」
「お前は……」
クムイは誰も聴かないと生活ができないと言っていた。先ほどまで輝いていたクムイの声が曇りだすようにエシュは感じる。クムイは音楽を歌を、ひいては自分をただの金儲けとしか見ていないのだ。
――だから、人間は嫌いなんだ。
エシュは無言で立ち上がると、花の輪を抜け、部屋から出ていく。光り輝く輪の中でクムイが六弦琴を抱きしめて、肩を震わせていた。それを見守る余裕もなく、自分の部屋に戻ると、すぐ寝台に転がりこんだ。早く音楽の中へ帰ってしまいたい。
どうせ、すぐ死ぬ命なのだ。
・
一人残されたクムイは、六弦琴を置くと花を片付け、馬車に戻す準備をしていた。鼻を啜り、時折涙を手の甲で拭く。エシュはすべての音楽だからわからないのだ。誰も聴いてくれないと、人間の音楽は存在しないのと同じことだと。
――でも……。
エシュは自分の声を褒めてくれた。
――だけど……。
クムイは気持ちのぐらつきを振り払うように、音響植物を抱いた。ふっと息を吐くと、光の粒が飛んで、すぅっと消音植物に吸い込まれて消えた。
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