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 よく晴れた天気。空では小鳥が高い声で鳴いていた。木材で作られた質素な家が並ぶ小さな村は今日も笑顔で挨拶を交わしあう。穏やかな気温の地域がら、村人は誰もが朗らかだ。ひとつ普段と違う点をあげるとすると、昨日の音楽会のためか、村人には興奮が残っている。  ――あれだけ素晴らしい音楽を聴いた……。  そんな感激と、優越感だ。  村人は普段は質素な生活で娯楽らしいものは何もない。それだけ、音楽家など旅芸人が来てくれるというのは、大人でも子供に帰ってしまう気持ちにさせるものだった。  昨日の余韻が残り、作業の手をふと止めてしまう。そして誰かと昨日のことを語り合う。熱くなりかけると、おっといけないという風に作業に戻る。その繰り返しだ。 「クムイお姉ちゃん、これを石に叩くの?」 「そう、石に叩いて耳の中に入れてみて、キーンとした音が鳴るでしょう?」  村の中央ではクムイを中心とした子供たちの群れがある。雪人形のような胴から、首のように板が伸び、その先端に糸巻がある弦楽器――六弦琴を抱えた幼女が、二股に分かれた小さな金属棒を石に当てた。耳に当てて「キーンとする!」とはしゃいだ声をあげてクムイに向き直る。クムイは笑って、「じゃあ、五弦……ここの音を鳴らしてみて、押さえてパッと放すだけでいいから」と語りかけた。 「音が違うでしょう?」 「うん、キーンとしてるのよりも低いよ」 「じゃあ、この六弦琴の先端にある糸巻をくるっと回すの、繊細な部分だから、ちょっとずつね。回して、鳴らしながら、そのキーンって音と同じになるようにするの」 「わかった!」  元気な声とともに幼女はもう一度金属棒を石にぶつけ、耳にあてて同じようにする。クムイに教わった通りにちょっとずつ糸巻を回す。そして弦を弾くと「音が違った」とはしゃぎ、金属棒から発する音に近づける。クムイはそれを笑いながら見守っていた。 「同じになったよ!」  幼女が五弦を鳴らして、クムイを見上げる。クムイは頷き、「じゃあ、その五弦のここを押さえて六弦を鳴らしてみて。この六弦をこの五弦と同じ音になるようにするの」と六弦琴の調律を教えていく。何度か苦労したが、幼女はクムイに習いながら、どんどんと音のズレを直していった。 「よくやったね、これで調律……音の合わせが済んだの。ほら、全部の音を鳴らしてみて」  幼女は六弦から一弦を撫でるように鳴らすと、ぱあっと顔を明るくして、もう一度と何度も鳴らした。 「これが解放弦っていう音。次に簡単な和音を教えるね。首に段々がついてるでしょう。それを見て、二弦の一番上と三弦のこの二弦より一個下の部分と五弦の三弦の一個下を押さえるの。他の弦には触れないようにね、しっかりと押さえて」
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