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幼女の小さな手では多少苦労をしたが、何回か押さえるとコツを掴み、解放弦とは違う和音を響かせる。幼女は先ほどよりももっと顔を輝かせ、弦をかき鳴らした。
「素敵でしょう? わたし、この最初に押さえた和音が一番好きなんだ。すべての琴弾きはね、この最初に自分で調律して弾いた和音の感動を求めて、音を鳴らすって言われているの。だって、ちょっとびっくりでしょ?」
「うん!」
「絶対に忘れちゃダメだよ。この音は始まりの音だから」
クムイは幼女の頭を撫でると、六弦琴を受け取った。糸巻を軽く回して、他の子供に渡して、同じように調律を教えていく。
「琴はね、わたし、世界で一番優しい楽器だと思うの。爪弾きって言葉があるでしょう。仲間外れって意味。でも琴の爪弾きは音を生み出すの。仲間外れなんかいないわ。だからみんなも琴のように優しくなってね」
和音を弾く子供の頭を撫でて、クムイは優しく優しく言った。子供たちは元気よく返事をする。
「わたしもいつか六弦琴を買って、絶対に練習するよ。それでね、それでね、昨日クムイお姉ちゃんがやったように、この村を明るくするんだ。夜もピカピカにするの! クムイお姉ちゃんよりずっと!」
幼女が無邪気に声をあげると、幼女の親だろうか……男性がやってきて「これこれ」と窘めた。
「星降祭にお呼ばれしている六弦の花姫さまになんていうことを……すみません」
男性が頭を下げる様子にクムイも幼女と変わらない仕草で軽く首を振り、もう一度強く首を振った。
「わたしは身分もない、故郷もない、流浪の民よ。ただの、琴弾きだわ」
そうは言っても、男性の目は変わることはなく、どこか憧れを含めたものであった。
星降祭とはこの国の祭りである。国の有力者が何人かの音楽家を指名し、星降祭にて音楽を競いあわせる。それに優勝したものは宮廷音楽家になれるのだ。宮廷音楽家は星を国に降らせることから、名誉あるものだ。国に光をもたらし安寧を祈る職である。クムイのように身分もない、ただの旅人でも、貴族と同じ扱いを受けられるようになるのだ。クムイは星降祭の参加者の一人に指名されていた。男性から見れば、いつか姫になるかもしれないようなものなのだろう。
からんからんと村の鐘が鳴り響いた。昼時を告げる合図だ。
「さあ、みんな帰って、お母さんたちがご飯の用意をしているよ」
子供たちを笑顔で見送ると、クムイは「時間だ」と呟いた。手早く六弦琴を布で包み、走り出す。ぱっと麻のレースが羽ばたいた。その顔から笑顔は消え失せ、憂鬱と何かに縋るような痛切なものが浮かんでいた。
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