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 沈黙が流れた。チャックノリスも精霊持ちだ。苦労した面もあるのだろう。それぞれが何かを思い、悼んでいた。  チャックノリスが重い口を開く。 「六弦の花姫、そう呼ばれる歌姫ならば……可能かもしれん」  クムイは顔をあげる。チャックノリスは迷うように、顎を撫でていた。 「これはわしらのような老人くらいしか覚えていない、おとぎ話のようなものだ。だが、伝説としてある。真夜中、十字路へ行き、楽器を鳴らすのだ。そうすると音楽の精霊があらわれる。音楽の精霊は楽器に口付け、調律した後に一曲弾き、おぬしに楽器を返す。音楽の精霊はなんでもできる。おぬしをなんでも弾ける琴弾きにも、壊れた楽器を直すことも……」  直す。その言葉にクムイは立ち上がって帳場にしがみつく。 「それは……?」 「十字路の伝説と呼ばれる、老人のおとぎ話だよ。音楽の精霊なので、それ相応の実力じゃないと呼び出せない。どうしても、どうしてもこの楽器を直したいと思うのならば、それしか道はない」  クムイはチャックノリスの目をまっすぐ見つめた。チャックノリスはクムイの視線を受け止め、深く頷く。  少女の精霊がふんわりとした手つきで六弦琴を布に包んだ。クムイに楽器を渡すと「あなたに祝福がありますように」と頬に口付けをする。クムイも礼を言い口付けを返した。 「ありがとうチャックノリスさま、それにあなたも。わたし、挑戦してみるわ」  深々と頭を下げてクムイは楽器店から出ていく。チャックノリスは願いの仕草を取ると「どうかあの子へ音楽の祝福がありますように」と祈りを捧げた。  ・  真夜中。クムイは夕暮れになる前に村近くの十字路に幌馬車をとめた。そこで野営をし、真夜中になるのを待った。夜は月明かりがほんのりと道を照らし、微かな影を作っている。クムイはそっと六弦琴を持ち、おそるおそる十字路へ立った。  夜なので誰もいない。獣の声もしない。風がたまにふわりとレースを翻すが、それだけだ。そのまま座ると六弦琴を腕に抱え込み、残った弦を鳴らした。緩んだ弦は音を響かせず、ビンっと弾かれるだけだ。それでもとひとつひとつ弦を弾かせる分散和音という用法で、残った弦で音楽らしきものを弾いてみる。しばらくそうしていると情けなさに涙が出てきた。  吟遊詩人にとって楽器は大切なものだ。何よりも守らねばならぬもの。それを守れなかった。  ビンビンとした拍子に合わせて歌を歌うがから滑りして音が流れていく。
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