10人が本棚に入れています
本棚に追加
ここからは私の推測だが、シロは完璧なまでの毛刈りをされていたことから、重度の皮膚病に侵されていたのではないか?
耳としっぽの毛まで丁寧に刈られていることからも、とても素人の仕事とは思えない。
恐らく、シロは立派な毛皮が仇となり、皮膚病になった。
何せ、九州の夏は人間でも耐えられないほどの高温多湿だ。
どう見ても、寒冷地仕様のシロには辛すぎる。
獣医師に毛刈りされ、軟膏を塗られ、皮膚病が完治するまでの間、涼しい自宅に犬小屋と鎖ごと引っ越したのではないか?
そして、転地療養の結果、病気も治り秋になったのでまた元の場所に戻された。
私はシロの飼い主を愛情のないひどい人だと思い込んでいたが、きちんとペットを獣医師に見せて治療する立派な人だと知って、申し訳ない気持ちで一杯になった。
けれど、戻ってきたシロはきっと不思議に思っていたにちがいない。
「あれ?この子、いつもの女の子だよね?どうして知らん顔してるんだろ?あれ?あれ?」
シロにはもちろん、毛刈りしてまったくの別犬になってしまった自分の姿はわからない。
自分はいつもの姿のつもりで、ゆらりゆらりとしっぽを振っていたシロ。
その時のシロの気持ちを想像すると可笑しいような、可哀想なような気がして、私は今でも苦笑いが浮かぶ。
シロが戻って来てからの私とシロの関係は、私が高校を卒業するまで穏やかに続いていった。
あれから長い月日が流れた。
大人になった現在でも時々シロのことを、懐かしく思い出す。
あのモコモコの大きな犬は、今も私の欠けがえの親友だ。
けれど、無性に知りたくなることがある。
シロの本当の名前は一体、何といったのだろう……?
最初のコメントを投稿しよう!