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紗弓に直接マスターのことが好きだとか、つきあいたいだとか、言ったことはないけど、
わかってるよ。
大丈夫だよ。
と言ってもらった。
紗弓だって年の差と戦っているのだ。
大好きな人とずっと一緒にいるために、色々と我慢もしている。
寂しさとも戦っている。
桐谷さんを狙っている女たちはごまんといるし、そのほとんどは私たちより年上で、美女で、やり手ばかりだから本当に気が抜けない。
まだ学生の身分の私たちは、大人から見れば親の脛かじりのお子様でしかないだろう。
でも……
お子様にだって意地も勝機もあるんだから!
茉由は気合い充分で雨音の入り口ドアを開けた。
ドアベルの音にマスターと紗弓が「いらっしゃいませ」と反応するその瞬間、一番の笑顔でいられるように茉由は心掛けている。
「茉由、いらっしゃい」
店内を忙しく歩き回りながら紗弓が笑顔で言った。
そしてカウンターを見ると、
「茉由ちゃんいらっしゃい」
いつもと変わらない優しい微笑みで市成が茉由を出迎えた。
ーーやっぱり好きだな。
定位置であるカウンターの一番右端に座りながら、そう思う。
「茉由ちゃん、いつものにしますか?それとも気分を変えますか?」
「いつものをお願いします」
「かしこまりました」
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