1杯目

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1杯目

つい最近まで薄手のブラウス1枚でも汗をかいていたのに、ここ数日で一気に気温が下がって朝の風景も様変わりした。 肌に突き刺さる凶暴な日差しは消えて、冴え冴えとした青空が広がっている。 窓を開けて澄んだ空気を吸い込むと、鼻先に秋の匂いがした。 紗弓(さゆみ)がリビングに行くと、テレビでは衣替えについてキャスターが語り、ブレザーを着て通学する女子高生の映像が流れていた。 紗弓も半年前までは彼女たちと同じように制服を着ていたはずなのに、ずいぶん昔のことのように感じた。 「おはよう。今朝は寒いね」 紗弓はキッチンで朝食の準備をしている母に声をかけた。 「夜はもっと冷えるって。なにか羽織るものを持っていったほうがいいわよ」 湯気の立つスープカップを差し出しながら母が言う。 渡されたカップを両手で包むと、紗弓の冷えた指先がじわりと温もる。 「あれ着ていけば?」 熱々のスープを口に運びながら、紗弓は母の言葉に顔を上げた。 「まえに桐谷さんに買ってもらったやつ。葡萄色の」
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