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「茉由ちゃん、いつものにしますか?」
パリッとノリの効いた黒いシャツの袖をまくり、その上に黒いエプロンをつけたマスターが茉由に尋ねる。
茉由は少し考えてから言った。
「マスター、ココアってありますか?」
マスターは優しく微笑んでから答える。
「できますよ」
その言葉を聞いて、茉由は気づいた。
「ありますよ」ではなく「できますよ」と言ったということは、
この店のメニューにココアは載っていないのではないか、と。
客の大半はサイフォンで淹れる本格的な珈琲を楽しみに来ているのだし。
雨音は紅茶の種類も豊富で、マスターが英国式で丁寧に入れてくれるこだわりの一杯が飲めるというのに。
ココアなんて……子どもっぽい注文をしてしまった。
メニューを見て確かめたい気持ちと、見るのが怖い気持ちが茉由を揺らした。
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