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知輝だからモキ。
小さい頃に茉由がつけたあだ名で、それは万人にウケて、友人たちはみんな彼のことをそう呼ぶ。
「姉ちゃん、彼氏つくんないの?」
急に声のトーンをおとして知輝が言う。
「姉ちゃん俺に似て顔は悪くないじゃん。昔からモテるし」
鏡の中から姉を見て、続ける。
「ここ最近、なんか暗いし」
へぇ、モキでもそんなこと言うんだ、と茉由は
思う。
「あんま考えすぎないでさ。俺みたく楽しくデートすれば?テキトーに」
そこまで黙って聞いていた茉由は、
「あんたが私に似てるんでしょ!あと顔だけはって言うな!」
と言って再び後ろから弟をど突いた。
茉由は今日、久しぶりに雨音に行こうと決めていた。
市成がカップを割って指を怪我したあの日から一週間以上が経っていた。
大丈夫。
何もなかったように、いつもどおりにお店に行けばいい。
自分勝手な理由で、桐谷さんに辛い過去の話をさせてしまったけれど、これ以上の詮索をするつもりはない。
それに、
単純にマスターの顔が見たいと思った。
マスターのコーヒーが飲みたい。
理由はそれだけで充分だった。
それに、今日は紗弓がバイトに入っている日だから大丈夫。
あの日、紗弓からもらったメッセージに茉由は勇気づけらていた。
ーー負けるな茉由!
がんばれ!
年の差の壁なんか壊しちゃえ!
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