潮味のミルクティー

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 ご飯もそこそこに訪れたこのカフェを彼女はとても気に入っている。結局、と私はココアの蓋を外しながら尋ねた。 「海沿いってさ、何して遊ぶの」  たちのぼる湯気にカカオの香りが乗っかって、鼻先をくすぐる。 「うーん、花火?」 「それダメなやつじゃない?」  たしかにい、と凪優はお気に入りのミルクティーをすする。 「だってえ遊ぶとしたら――ん、久しぶり!」  凪優の席から見える入り口に知り合いがいたのだろう。手を振ってにこっと笑う。店内のガラスに映り込む姿を確認する。また知らない人だ。 あっちこっちと会う人会う人仲良くなってしまう雪だるま式友人作成機な彼女にとって、私は一体どういう立ち位置なのだろう。 「なんだっけ? あ、遊ぶとしたら! ボウリングかカラオケくらいなんだもん。あのね、遠足で美術館に四回も行ったんだよ? よ、ん、か、い」  そのぐらい何もない、ということらしい。ふんふんと鼻息付きで四本指を突きつけられ、わずかに身体を反らす。 「もしかして、前に話してた美術館のこと?」 「そう! じゃあ決まり」 一体、何が決まりなのか。私が美術館を言い当てたことも、いつから同じミルクティーを頼まなくなったのかということも、彼女には全く見えていない。ため息を鼻へ逃がして、いつの間にか読めるようになった彼女の行間を感じ取る。 「あのさ、確認なんだけど。決まりっていうのはなあちゃんの地元に行くってことだよね」 「来るでしょ? 前に来てみたいって言ってたじゃない」  そういうことは覚えているんだよね。いつの話だっけ。行かないよ面倒くさい、と言えたらどんなにいいか。
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